虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

物ノ怪本家 その06



 コミの決意は親子の縁をも断つ。
 物ノ怪と怪ノ物、憎悪の連鎖に縛られた父親は、当然その選択に猛反対。

 だが、コミにその声は届かない。
 彼女は過去ではなく今を、そして未来を見て生きているのだから。

「──そろそろ、でしょうか」

「うむ。すでに宣言はした、これ以上の長居は不要じゃ」

「このまま帰すと思うか!」

「想定の上じゃ。だからこそ、一人で来ていないのじゃ」

 いくつも用意した脱出の手段。
 まずは『ポイントシャッフル』を使い、鳥居付近までコミを転移させようとする……のだが、何かに阻害されたらしい。

「……αプランは失敗です」

「母う……朱音様か」

「ふふっ、母上でいいのよ。可愛い娘に縁を切られちゃったけど、私が貴女の娘であることに変わりないんだから。それより、転移まで使おうとしてたのね……危なかったわ」

 どうやら母親が何かして、転移阻害をしているみたいだ。
 妖術による阻害に関しては、まだ情報が足りてないからな……突破は不可能か。

 下げていた頭を上げて、体を起こす。
 突然動き出した俺を見る百鬼夜行を一瞥してから、コミへと手を伸ばす。

「──では、βプランに移行しましょう。孤魅童子様、お手を」

「うむ」

「あら、まだ何かやるの?」

「ええ──『インプット』」

 俺を信じ、能力を受け入れるコミ。
 その体は粒子となり、俺の手に埋め込まれた宝石の中へと取り込まれていく。

「理屈の説明は不要ですね。解除方法は、私の完全な死。生きている限り、私はしぶとく生き延びますのでご容赦を」

「…………」

「魅了は効いていますよ。ですが、魅了は死後まで続きませんので」

 俺にもずっと魅了を仕掛けていたし、目を合わせて以降はその効果も強まっていた。
 ──がしかし、『死』という圧倒的な状態異常に塗り潰され、自動的にリセット。

 何度も生死の境を彷徨っている俺は、副次的に魅了を無効化できている。
 一方、百鬼夜行衆はほぼ全員が魅了に引っかかっている……そろそろいいだろうか。

「孤魅童子様の前ですので言えませんでしたが、あえて言わせていただきましょう。貴方がたは、この育て方を間違えた」

「そうかしら? でも、それがここの掟……ひいてはあの娘を守るための方法だったの」

「たしかに、そういった見方もできるでしょう。しかし、もっとも傍で見守ってあげるのもまた、子供を守る立派な方法でしたよ」

 さて、言いたいことも言ったし帰るとしようか。
 そう考える俺だが、急に視界が陰ったかたと思えば──頭を握り潰される。

「……奇妙な。頭を潰されても死なぬとは」

「おや、一周周って冷静になれたので?」

「いいや、今もキレておる。そして、冷静になるのもまだ早い──娘をこの場に出せば、大人しく許してやろう」

「いえいえ、貴方の娘など私はご存じありません。私が知っているのは、孤魅童子様という立派なお方だけですよ」

 頭が無くなり、滑るように着地した俺。
 それを行ったのは巨大な鬼──言葉でダメなら、力尽くというわけか。


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