虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

物ノ怪本家 その04



 話し合いが始まった。
 俺は頭を下げたまま、『SEBAS』が網膜に投影してくれている、頭を上げていた状態での視界で流れを見届ける。

「──先の件、怪ノ物共相手に無傷での勝利見事だった。鳥居は要、奴らに奪わせるわけにはいかない」

「……その割には、援軍は間に合わなかったようじゃが。この者が居らねば、民たちに被害が出ていたのじゃ」

「そう、この者が……顔を上げよ」

「…………。恐れ多く。私のようなか細いこの身、下を向かねばこの場に居ることすら」

 さらに圧が強まった。
 意に背く愚者、それを許してはこの場での権威が損なわれてしまう。

 しかし、実際問題俺は死んでいる。
 あえて一時的に『生者』の権能を調整、死に戻り待機状態になることでその脆弱さを証明することに。

 当然、周囲はどよめく。
 呼び出した相手に威圧を掛ける、これだけならまだよくある交渉テクニック……だが、それで殺してしまったら元も子もない。

 そして死んだはずの男が、再び何の脈絡もなく動き出してさらに吃驚。
 彼らは一流の戦士でもある、その感覚で見極めた生死判定が間違っていたのだからな。

 ──うん、間違ってないけども。

「と、このように貧弱な我が身。どうか、このままで居ることをお許しください」

「…………」

「ええ、許しましょう。貴方も、そのくらいにしておきなさい」

「…………ああ」

 彼らはこう思っているはずだ、ここまで頑なであることには意味があるのかと。
 実際のところ意味なんてない、だが何かあると思わせることができる。

 その警戒は隙を生み、コミから意識を逸らさせることできる──それこそが俺の目的であり、それ以上の理由など無い。

「そのままで良い、名を名乗れ」

「『生者』と申します。権能はその名が示す通り、しぶとく生き残ること。非力なこの身ではありますが、現在は彼の地にて孤魅童子様のお手伝いをさせていただいております」

 名乗る、そしてそれで終わり。
 俺が呼び出されたのはこれをするため、それ以上のことは何も求められていない。

 再び彼らの視線が捉えるのは、娘であるコミへ。
 決して娘に向けていいものではない、冷淡な眼で見下ろして。

「孤魅童子、お前をここに呼び出したのは他でもない。すでに聞いているぞ、怪ノ物共との停戦を勝手に決めたらしいな」

「──そうじゃ」

 ざわつく周囲。
 だが、これもまた一瞬で静まる。
 シャランと鳴り響く鈴の音、これはコミの母親によるもの。

「…………(ニコリ)」

 無言の笑みに彼らは心を奪われた。
 現実世界同様、九尾の狐にはそういう力が備わっているのだろう。

 そして、再び静かになった空間でコミは発言する──物ノ怪と怪ノ物、両者を繋ぐ橋渡しのために。


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