虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

物ノ怪本家 その02



 百鬼夜行──悪人共が悪逆の限り尽くすといった感じの言葉だ。
 しかしそれは、百鬼による夜の徘徊を基にしたという説もある。

 この世界……否、現状において百鬼夜行の意味として正しいのは後者だ。
 コミ、そして俺に向けられる二百の眼、百の物ノ怪たちによる視線がその証拠である。

「──お待ちしておりました。御当主様はすでに母屋で」

「……うむ、案内するのじゃ。じゃが、その前に──その視線を止めよ」

「ああいえ、構いませんよ。身動きが取れなくなるほどではありませんし、何より……これで程度が知れますので」

『────』

 そう嘯くと、より強くなる圧。
 だが、その程度の経験は幾度も味わっているので、本当に気にならない。

 何度も、何度も何度も圧が俺を殺す。
 生命力の消失に気づいている者もいるだろうが、その吹けば消えるようなか細い火は、何度消そうとも再び発火した。

 視線の大半は俺に向いている。
 だがしかし、ごく一部は間違いなく俺ではなくコミを見ていた。

 コミは本家の当主、そしてその正妻の間に生まれた子供。
 なのに放流された理由……それはその見た目が、普人そのものだったから。

 物ノ怪たちと違い、コミはいわゆる妖怪の性質を完全な形で引き出すことができない。
 それは色濃く発現しているのが、見た目同様に普人の性質だったから。

 利点はある、しかしそれでも彼らにとって人族の性質とは害悪そのもの。
 たとえ自分たちの大将の娘であろうとも、それを認められたい者も居るのだ。

「孤魅童子様、お任せを」

「……そうじゃったな」

 大船に乗ったつもりで、そう語ったことを思い出してくれたのかもしれない。
 向けられる視線はやや減ったものの、それでも確実にコミへ軽蔑の目が向いている。

 だが、彼女は凛とした振る舞いを失わず、前へ歩を進めていく。
 やがて彼女の存在は、百鬼以外の存在にも知覚される。

「──チッ」

 聞こえてくる声は、そのどれもがコミを軽蔑するもの。
 誰も歓迎などしていない、空気そのものがコミを排除しようとしている。

 彼女が何をしたのだと言いたい。
 しかし、今回覚悟を決めた彼女の邪魔をするわけにもいかず、ただ舌打ちをするだけに終わる。

「これでいいのじゃ。いつか、私と同じような者たちがこういった目に遭わぬよう、協力してくれるな?」

「……ええ、お望みとあらば」

 心優しいこの子がそう願うのであれば、俺にできることはそれを全力で支えるだけだ。
 千苦、そして隠れ里に住まう者たちから託されているのだ……絶対に守り抜いてやる。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品