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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

物ノ怪本家 その01



 隠れ里が存在する場所と、物ノ怪たちが住まう地はかなり離れている。
 故にすでに復旧している鳥居の転移装置を介して、俺とコミは本家へと向かう。

「孤魅童子様……どうかお気をつけて」

「千苦、そう心配するでない。ツクルも居るのだからな」

「そうそう、大船に乗ったつもりでいろよ」

「……泥船で無ければ良いのだがな」

 コミに張り詰めていた空気が若干和らいだところで、鳥居を潜っていく。

「これは……初めて通った時とは違っていますね」

「そういえば、ツクルは不安定な時にここを通っておったんじゃったな。これこそが、本来の回廊なのじゃ。千本回廊、ありとあらゆる世界に配置された千本の鳥居が繋がることで、移動を安定させているのじゃ」

 あの頃は装置が壊れていたので、仲間に入れてもらえなかった……みたいなことか。
 だが修理を終え、今では安定して転移するための道が確保されているわけだ。

 千本鳥居のような道を通ると、だんだんと視界が揺らいで光景が変化する。
 そして、鳥居を潜り抜けた先──そこには華やかな木造建築が広がっていた。

 ただ、全体的に暗い……使っている素材が原因なのだろうか。
 物ノ怪たちが使っている妖気の反応があるので、その予想はおそらく当たっている。

「ここが……本家って場所か」

「うむ。陽陰の都、と呼ばれているのじゃ」

「あえて陰陽の逆にしているところが、複雑な心境を表しているな」

「言うてくれるでない。私とて、怪ノ物との間は取り持ちたいと思えど、陰陽師たちとの関係は……まだ複雑な心境じゃ」

 まあ、千苦を封印していたのも陰陽師だったし、その他にもさまざまな理由で陰陽師と関わった物ノ怪たちが里にも居た。

 彼らからそのことを知ったコミからしてみれば、直接の害は無くともやはり思うところはあるのだろう。

 実際の所、総大将である『陰陽師』は食えない相手ではあるが、絶対に物ノ怪を滅ぼしたい……といったことはないはずだ。

 それでも、分からないモノは怖い。
 コミとてまだまだ子供、達観して即座に和平を……とはならないのだ。

「まあ、それはいつかの話だ。今はこの瞬間のことだけを考えようぜ」

「うむ、そうじゃな……ここを乗り切ることができなくては、その先の未来を乗り越えることなどできぬのじゃからな」

「千苦にも言ったが、大船に乗ったつもりで居てくれよ。少なくとも、三途の渡し船なんかに譲るつもりは無いぞ」

「ツクル……冗談にしても、あまり笑えないのじゃ」

 それでも、コミの緊張は再び和らぐ。
 ここに来て、存在感を察知してしまったのだろう……強力な妖気は、すでに俺たちの来訪に気が付いているのだから。


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