虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

怪ノ物騒動 その09



 ポーション配りは順調、すでに上から停戦の指示が出ている以上、大半の者は物ノ怪たちへの戦意を失っている。

 なのでどんどん回復させ、恩を売るという計画は順調だ。
 何人かの権力保持者に約束を取り付け、更なる利益を獲得していく。

 中には俺の存在を訝しむ者もいたが、そういった者たちも周りで癒えていく者の姿を見れば大人しく飲んでいった。

「──さて、これでとりあえず動けなくなった方々は治りましたかね……ふぅ、しばらくは状態は膠着するか」

 広域に飛ばした細菌だが、あくまでも結界周辺に居た者が主な被害者だ。
 そうじゃない者にも倒れた奴は居るが、それは物ノ怪たちに危害を加えた連中。

 仮に貿易成立に役立つ者でも、それがいずれ物ノ怪に害を成すのであれば不要。
 なので治すのは後回しにして、少しでも苦しみを味わってもらっておいた。

「コミのアイデアがそのまんま実現したら、より深い交渉関係を築けるだろうな……実際できると思うか?」

《可能性は低いように思われますが、それでも試して損は無いかと》

「……そうだな。まあでも、コミならやり遂げてくれると思うんだよ──物ノ怪、そして怪ノ物たちの新たな関係の構築」

 コミは願った、真の意味でこの里が傷ついた者たちを癒す場所になることを。
 それは物ノ怪だけでなく、袂を別った怪ノ物も含んでいる。

 現在行われている交渉で、その半分ぐらいは話しているだろう。
 そして、いずれは物ノ怪の本家にも……それがどうなるのか、俺には分からない。

「あの人ならばできる、そう信じさせてくれる。交渉には重要な要素だよな、コミはそれが天然もので備わっているし」

 だからこそこの里の者は、最終的に俺を受け入れてくれた。
 そして、それゆえにこうして里を怪ノ物たちから防衛できている。

「──千苦、どうなると思う?」

「どう、とは?」

「人族とも、以前に怪ノ物とも戦ったことがあるんだろう? だからこそ、コミの提案が本当に上手くいくかどうかだ」

「──上手くいくはずがない……そう、これまでは考えていた。だが、貴様や狐魅童子様の行いは、これまでの常識やちっぽけな考えなどすべて変えていった。ただそれを、俺は信じてみるだけだ」

 ニヤリと笑う千苦は、すでに締結されることが決まっているかのように語った。
 だが間違いなく、荒れるだろうな……ある意味、両陣営を敵に回すわけだしな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 物ノ怪、そして怪ノ物たちにとって、この日は忘れられない一日となった。
 これが狐魅童子──『超越者:■■』誕生の始まりとも呼べる日。

「──なんてことになればいいけど」

《それは……難しいかもしれませんね。現在の孤魅童子は『ブルームフラワー』の能力を発現させていますので》

「コミなら行けると思うんだけどな。まあ、絶対の法則だから発現中は無理だろう。それでも、方法はいくらでもあるんだしな」

 今はただの妄想でしか無いが、すべてを成し得た時必ずコミは変わる。
 それがより良い方向になるよう、俺も千苦も頑張っていかないとな。


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