虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
怪ノ物騒動 その08
「完成だ──“ウルスウィルス”」
対怪ノ物特化の細菌を、戦場にばら撒く。
その効果は一瞬で発現、一定の距離まで物ノ怪たちの結界に近づいた者がそのまま身動き一つ取れなくなっていく。
また、距離とは関係なく一部の者たちが突然咳き込みだす。
それはかつて、物ノ怪たちに攻撃をした経験のある者たち。
万能細菌メーカーである『ベストペスト』によって、距離と戦歴から発生する症状を生み出していた。
まあ実際、鑑定の中でも特化したスキルには、これまでに何を討伐していたかなどを知ることができるモノもある。
さらに言うと、『プログレス』使いや休人全員が使える[メニュー]を操作すれば、その情報は誰でも把握可能だ。
「結果は上々、“グッドラック”で改造した甲斐があったってもんだ」
俺が細菌で死んだ際に生成されたアイテム『死病の菌糸』を、改良に特化した能力で再調整して生み出したのが今回の代物。
改造を行うための能力“グッドラック”。
そして、その調整パラメーターの制限──特に病疫度に関する部分を、最大限まで弄れるようになるのが“ウルスウィルス”だ。
そんな代物なので当然、調整を誤っていればこの場すべての者が死滅していただろう。
……『SEBAS』が居なければ、絶対にやれなかった作戦だよな。
「さて、コミ……ここからはそっちに任せてもいいよな?」
「うむ。感謝するぞ、ツクル」
「俺はそうだなぁ、ビジネスの話を少しばかりしてくる。今の状態なら、多少高くなろうと治ると言ったら買ってくれそうだしな」
「…………少しは優しくしてやるのじゃぞ」
コミの言葉にはひらひらと手を振り、口での返答はしないでおく。
認識阻害も混ぜて、俺が俺だと分からないようにしておこう。
そのうえで、継続的に交渉する相手はゆっくりと解けるように細工しておかないとな。
◆ □ ◆ □ ◆
今頃、里への不可侵条約でも結んでいるだろうか……。
倒れている兵士たちにポーションを配りながら、ふとそんなことを考える。
細菌がある以上、物理的に里へ近づくことができない怪ノ物たち。
なのでコミは結界の外で交渉をしているはずだが、その結果はどうなったのやら。
「さぁ、次の方。どうぞこちらを」
「す、すまない……」
「いえいえ、お礼ならば貴方がたの上官の方にしてください。こうして、貴方がたの危機に対して、魔法薬を使用することを選んでくださったのですから」
配ると言っても、あくまでそれを了承した者に限っている。
がしかし、一部の部隊では上官命令で飲むように命じられていた。
しかも、事前にその上官が毒見済み。
……おまけに物ノ怪攻撃によるペナルティの方は、いっさい受けていなかった。
ずいぶんと都合の良い交渉相手が居るな、と思いながら今後の予定を考えていく。
コミの条約締結までには、ある程度話を進めておかないといけないからな。
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