虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
怪ノ物騒動 その02
──怪ノ物。
ハロウィンでイメージされるような西洋妖怪たちの、こちらにおける呼称だ。
吸血鬼やら狼男、魔女やミイラ男なんて存在がこれらに該当する。
種族的にはどちらも妖怪。
だがその身体的特徴の差から、袂を別ったとかなんとか……ともかく、決して仲がいいわけではないようだ。
「そんな怪ノ物? たちがここの転移装置を狙ってくるわけだ」
「そうなのじゃ。すでに子供たちはこの社に避難させ、大人たちも防衛のための準備をしておる。ツクルもどうか、力を貸してほしいのじゃ」
俺の前で頭を下げる少女は、この妖界の隠れ里的場所の長を務める狐魅童子。
先祖返りの影響か、物ノ怪でありながら見た目が完全に人族ということで隔離された。
だが、それでも物ノ怪の力を発現できないわけではない。
それらを発揮したとき、彼女は属性もりもりな狐耳のじゃロリ鬼娘(巫女)となる。
そんな彼女はここの代表者として、この地に住まう者を救おうとしていた。
……物ノ怪的にはまだまだ子供、人族としては大人な俺も応えねばならない。
「ん? ああ、いいぞ。ただ、一つだけ……裏切りとかそういうことじゃなくて、向こう側とも取引がしたい」
「……その言葉、私と千苦以外が聞いておったら一大事じゃったな」
「いざこざの理由はさっぱりなんだが、ここが狙われる目的はあの鳥居だろ? それ以外に怨恨とかが無いなら、少なくともここの住民を守る方法を考えられるだけ考えておいた方がいいはずだ」
「…………そうじゃな。何よりも優先すべきは、ここの者たちじゃ。父上や母上には悪いが、それもまた選択の一つとして捉えておいても良いじゃろう」
まあ、今までお世話になっていたのもまた事実だし、向こうがこの地に手を出すのであれば、交渉も何もいっさいしないで排除する手伝いをするけども。
見知らぬ取引先を気にするより、まず信頼できる取引先を大切にしないとな。
社会人として、忘れてはならないお約束というヤツだ。
「ところでコミ、なんかその……風格が凄くなっているというか。尻尾、増えたな」
「ふっふーん、気づいておったか。ツクルのくれた『ぷろぐれす』の恩恵もあってな、私も成長しておるのじゃ」
初めて会った頃は一本だった尻尾。
それが彼女の『プログレス:ブルームセンス』によって、増えたようだ。
なお、その効果とは潜在能力の開花。
今は起動していないようだが、その気になればもう何本か尻尾を生やすことができるんだとか。
「感謝しておるぞ、ツクル。お陰様で、先を見ることができる」
「? 何のことだか分からないが、その能力はあくまで未来の前借りでしかない。コミ、それはお前の可能性だ。信じていれば、必ず自力で何本でも生やせるようになるさ」
「……九本以上は、不要じゃな」
ああ、九尾の狐か。
まあ、某忍者漫画を知っている俺としても九本がベストだと思う。
まあ、何はともあれ今回の問題に関して情報も……得られてないな。
怪ノ物たちのことについて、ちゃんと聞いておかないと。
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