虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

怪ノ物騒動 その01



 妖界

 前に俺が直接訪れたのは、『プログレス』の配布をしていた時だったな。
 あれから『プログレス』という通信技術もあって、連絡は容易となっていた。

 そのため、渡したときは知らなかった知人たちの『プログレス』も借りたことがある。
 ……後からそのことを伝えたら、なぜか感想を問われたな。

「しかし……今日は何やら騒がしいな」

 鳥居型の転移門を潜り、物ノ怪たちが住まうこの地に来たのだが。
 大人たちがかなり気を張り詰めており、子供の姿も見当たらない。

 何があったのやら、それを問うべき相手は向こうから俺の存在に気づいてやってくる。

「──このタイミングで来るのか。本当に、運が良いのか悪いのか」

「お久しぶりです、千苦さん」

「……その口調は何のためだ?」

「まあ、最初はな。こほんっ……よっ!」

 ピッと手を挙げて挨拶したが、残念ながら真っ黒な鬼さんには通じないようで。
 ただ深く、溜め息を吐かれるだけ……失礼な、ボケただけだろうに。

「それで、この状況はいかに?」

「……言えば、協力してくれるのか?」

「条件次第だな。最近、いろいろとやっていてな。何かしらの形で、そっちの方にも協力してくれると張り切ってしまいそうだ」

「…………恩人である貴様の主張であれば、大半のことは受け入れよう」

 ここに『プログレス』を持ち込む前から、鳥居を直したことで俺は恩人扱いだ。
 それだけでなく、以降も行っている輸出入も彼らに益をもたらしている。

 頭の固い大人の皆さんも、実用的な娯楽品には大変興味を持っていた。
 将棋だの囲碁だの、和風な場所なのでイケるとは思ってたんだよな。

 余談だが、将棋も囲碁もすでにこの世界には似たような物が存在していた。
 まあ、魔力でファンタジーな攻撃ができる世界なので、ルールは違っていたけども。

 それでも、妖界の者たちが外に出てそれを手に入れることは極めて困難。
 なのでここに居ながらそれを得られるというのも、れっきとした益なのである。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 移動しながらの説明、それはとても興味深い内容だった。

「……こことは別に、まだ物ノ怪が居る場所があったのか」

「我らは東の物ノ怪。そして、奴らは西の怪ノ物。本来はこのような場所ではなく、中枢区画を狙ってくるのだが……ここには現在、表舞台へ向かうための装置があるからな」

「…………俺、協力以外の道無いじゃん」

「そう思うのならば好きにしろ」

 現実世界風に言うならば、怪ノ物──いわゆる西洋妖怪が侵略しに来たわけだ。
 ただ、魔物が存在する中で、これまた物ノ怪系の存在とは、と不思議に思う。

 まあ、そういったことも含めて、まずはここの大将と話し合わないといけないな。


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