虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

愚かな賢者 中篇



 いかに『愚かな賢者』とて、相手にいっさいの強硬策を取れないのであれば、無茶な方法で聞き出すことはできない。

 もともと休人には干渉に対するプロテクトが施されているものの、『プログレス』が深層心理を汲み取って能力を構築するように、やりようはいくらでもある。

 ──ここまでやって、ようやく対等に近いところまで交渉の席を意識させられた。
 少なくとも、自分も相手を立てなければ目的が果たせないことを察しただろう。

「それでお主…………えっと──」

「『生者』です」

「『生者』よ。もう単刀直入に言うぞ、お主の持つ“虚無イネイン”のスクロールを…………て、提供してはくれんか?」

「提供、ですか……いえ、そうですね」

 だいぶ渋ったうえでの提供という言。
 これまで自分がやってきたこと、その認識ぐらいはあるのだろう……まあ、それも自分が使った魔法云々でだろうだけど。

「ご理解いただけているかと思いますが、術式に関する情報は貴重なものです。先ほど、開示した分だけでも、かなりのものです」

「ぅ、うむ……」

「これまでのやり方がどのようなものか、この身を以って教えていただきました。ですがここは冒険世界アドベンチャーワールド、すべてが魔力やそれに派生する術式を優先する場所ではありません。どうか、それをご理解ください」

「…………はい」

 なんだか見た目も相まって、お説教をしているような気分だ。
 年齢、そして性別も正直に言うと微妙な相手に俺は何をやっているんだろうなぁ。

 だが、こちらが一方的に話している間に、向こうも冷静になったようで。
 あくまで、これまでのやり方が通じないからこそ、一時的に聞いてくれていただけだ。

「うごごごごぉ……」

「追い出されますよ」

「うごっ!?」

 俺の出せる切り札はこれだけ。
 相手が強硬策をこれ以上やれば、星の抵抗力が『愚かな賢者』を排除する……だからこそ、無茶はしてこない。

「……お小言はここまでにしましょう。こちらも結論から申します──ええ、“虚無”のスクロールは差し上げましょう」

「ほ、本当か!?」

「もちろんです。しかし、タダでとは言えません。一度こういった前例ができますと、次もということになります……ですので、取引という形にしていただきたいのです」

「…………つまりそれは、儂から魔の知識を奪うということか?」

 強い圧が掛けられる。
 それが俺にとって意味を成さないことは理解しているだろう、それでもこれは意識せずとも起きる『愚かな賢者』の想いの発露。

 だからこそ、俺も言わねばならない──これまでの被害者を代表して。

「それは、これまでそういったことをしていない者の言葉です。力があり、権威があり、誰にも止められない……これまでも、そして私からも奪おうとした貴方に、その言葉は不相応ですよ」

「…………」

「そのうえで、取引をしてくださいとこちらは言います。普段の振る舞いは、そちらの世界の問題です。しかし、こちらの世界にはこちらの世界なりのルールがあり、振る舞いがあることをご了承ください」

 俺に失うものなど無い。
 故に何度でも言うつもりだ、未知の魔法だろうがなんだろうが、俺の『生』を奪う理由になどできないのだから。


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