虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

虚無の魔法 中篇



「──八大星魔?」

「そう、私がエキシビションマッチで相対した『真海の主』と同格。魔法世界における最大戦力の一人──『愚かな賢者』」

「……矛盾してませんか?」

「しかし成立している。魔に関する知識を蒐集するためなら、どんなことでも行う。それこそ、愚かなまでに……かつて、先代とも相対したそうだ」

 まあ、『騎士王』の魔術なんてレア中のレアを欲しがらなわけがないか。
 とにかく、魔法世界における『超越者』的な奴がまた一人、来ているわけだ。

「それで、その方は現在?」

「ついでとばかりに魔術を要求してきたからな、とりあえず眠らせてある。だが、そう長くは続かん」

「持ってどれくらいで?」

「……一時間」

 短すぎる制限時間。
 しかし、そもそもいつから眠らせてくれていたのかを考えれば、充分に持たせてくれた方なのだろう。

 まあ、悪いのは俺だ。
 勝つために何でもかんでも注ぎ込み、ルリの運まで利用した結果である。

 もちろん、そのことは後悔していないし、反省もしていないけども。
 興味を持つにしても、『騎士王』の所まで殴り込みに行くような奴が悪い。

「──とりあえず、見てくれ」

「…………なんだ、この忌避感すら覚えるスクロールは」

「ん? 例の魔法のスクロール。大会の時は持ち込みが不可能だったから用意できなかっただけで、もう手に入れてはいたんだ」

「…………」

 いやー、だからこそ当てて出したものをすぐに使えたわけだからな。
 かなりヤバい魔法で、『SEBAS』でも解析にかなりの時間を使ったほどだ。

 分かったことはヤバいことのみ。
 ついでに言うと、使用者諸共辺り一帯を呑み込む性質上、誰も使えなくなり失伝したという歴史付き。

 調べたところ、魔法の研究をしていたら、突如として消えた国とかもあったらしいし。
 そんな魔法すら取り出せる『プログレス』の能力って……うん、マジでヤバい。

「……『生者』、他にもあるのか?」

「そうだな……“生命剥奪デス”、“神殺槍ロンギヌス”、“魂魄隷属トゥルースレイブ”とかがあるぞ」

「……最上禁忌に異端指定、それに遺失した魔法か。知る者が知れば、『愚かな賢者』でなくとも『生者』から奪おうとするな」

 まあ、だから俺も『SEBAS』がヤバいと警告した魔法はいっさい使わない。
 いちおう魔法陣として記録し、いつでも使えるようにしているんだけどな。

 使おうにも使いどころが見いだせないし、その死因で『死天』謹製アイテムを作るぐらいしかやっていない……まあ、そのアイテムも危険すぎて封印されたけども。

「ともかく、ここはいずれバレる。そろそろ場所を変えるとしよう」

「はいはい、周りに被害が出ない場所でな」

 俺とて、店主を巻き込みたくない。
 すぐに『騎士王』の手に触れ、転移の感覚に身を委ねるのだった。


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