虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
古代箱庭防衛策 その06
あれから数日、準備が整った。
湖の主たるヘノプスにも話を通し、実行中は外部に影響が行かないようにある程度補助してくれるらしい。
今回のターゲットは休人、そして築かれた拠点だけ。
古代世界の生物たちに、いっさい害の無いよう済ませたいのだ。
「『SEBAS』、作戦の経過報告を」
《──アイスプルより連絡有り。準備万端、いつでも行けるとのこと》
「……今回は完全に、命の冒涜だしな。各方面に迷惑を掛けるだろう。それでも、一度やりたいと思ったことを曲げるのはな」
特に信念とかポリシーとか、家族関係以外で貫きたいものは特にない。
ただまあ、日本で培った倫理観的にどうなのだろうというのが今回の作戦だ。
《中止、あるいは他の選択も可能ですが、いかがされますか?》
「これは『SEBAS』がやっていたことでもある……もう一度、アイツを日の目に晒してやりたいんだ」
《旦那様……》
「俺のため、たしかにそれは嬉しい。だがな『SEBAS』、俺は物語の主人公みたいな補正は何にもないんだ。やり過ぎは、心痛になりそうだから勘弁してくれ」
それでも、たとえ問題があろうと今回のプロジェクトは実行する。
親として、主として、『SEBAS』の行いに……生まれた存在に意味を与えるため。
「──さぁ、始めてくれ」
◆ □ ◆ □ ◆
その日、休人たちはいつものように拠点造りを行っていた。
周囲は強大な魔物たちに囲まれているが、湖付近は安全な場所。
そうした認識があるため、非戦闘職たちも平然と周辺で採取を行っていた。
──だからこそ、気づけない。
「……ん?」
「おい、どうしたんだよ」
「いや、今なんか唸り声が……」
「おいおい、冗談は止めてくれよ。ここに魔物が出てくるはず……ああっ!」
そこには本来、古代生物たちが住まう世界にはありえない存在。
犬に近く、しかしそれ以上にガッシリとした体躯──それは狼と呼ばれる個体。
だが休人たちの住まう世界の狼、そして冒険世界で現れる一般的な『野狼』よりも巨大な姿は休人たちから恐怖を生み出す。
そしてそれ以上に、彼らの目を奪う物──
「なんだよあれ、木が狼に? しかも──」
「あの表示、まさかネームド!?」
周囲の樹木が形を変え、『木狼』とでも呼べる姿と化していく光景。
そしてそれ以上に、狼の頭上に浮かび上がるUIによる表示。
「──『孤軍破狼[シャロウ](再)』。聞いたことねぇ個体だ!」
「しかもなんだよ『(再)』って! 新手のイベントか!?」
かつて、とある一家によって打ち倒された一匹のユニークモンスター。
すでにその身をアイテムにされ、消えたはずの存在。
しかし事実として、彼の存在は休人たちの前に現れた。
刻まれた使命に従い、展開した狼たちを彼らへ向けるのだった。
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