虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

幽源の世逃げ その12



 後日、俺は屋根の上に登っていた。
 街の至る所で人混みができており、普通に歩いていたら死にまくってしまうから……という理由が主なものだ。

 しかし、やはり一番の理由は違う。
 高い場所から見下ろし、その光景を眺めるのが最適だと思ったからだ。

 歓声が上がり、人々が列を成して通り過ぎる乗り物を見つめる。
 特に注目されるのは、やはり幽魔族たちの王である【幽王】だ。

「パレードか……平和そうで何よりだよ」

 和平が決まってから数年が経っており、その記念日を祝うイベントだった。
 ……本当、時の流れだけがここをゲームの中だなぁって思い知らせてくれる。

 俺が[ログイン]と[ログアウト]を繰り返している間に、いろいろとあった。
 現に、パレードの警備を行うゴロムの姿など、いったい誰が想像できようか。

「おっと、バレるバレる……気配を沈めないとな。いくら姿が見えないと言っても、意識させれば向こうも探ってくるからわけだし」

 結界、魔道具、そして[称号]とアイテムで隠してはいるが、絶対は無い。
 職業能力やスキル、果てはただの勘で見抜かれたこともあるしな……主に『騎士王』。

 まあ要するに、目立ったことを今はしたくないわけで。
 パレードにはもう一人、注目されている人物が居るのだ。

「【勇霊】……か。これまた【幽王】同様に若そうな見た目だよな」

《旦那様、おそらくですが──歳ほどかと》

「…………まあ、この世界はこの世界の年齢感があるわけだしな。ほら、森人とか長命な種族はいっぱいいるわけだしな」

 少女の姿をした【勇霊】。
 この世界における【勇者】の役割を担う少女が、【魔王】の役割を担う【幽王】と共にパレードに参加する。

 それこそが、幽人族と幽魔族たちとの和平の象徴となっていた。
 すでにゴロムが中心となり、反乱軍の残党も取り込まれ……二人を狙う者など居ない。

「ゲーム的に言うなら、ハッピーエンド……に当たるのか? まあともあれ、偶然だとしてもここに来た甲斐はあったわけだな」

《旦那様、この後のご予定は?》

「うーん、向こうは問題ないんだよな?」

《ジンリによる追手の陰も、これまでの量に戻りました。旦那様が派手に動くまで、変化は無いと思われます》

 当初の目的だった退避も、とりあえず目的達成に至ったようだ。
 冒険世界で活動しても、しばらくは逃走に特化しなくても良くなっただろう。

「……じゃあ、あそこに一度行こうと思う」

《──畏まりました。早速、準備の方を済ませておきましょう》

 どこと言わずとも、『SEBAS』は目的地を察してくれた。
 まあ、こっちに来てから会話に出していたからな……気になっていたんだよ。


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