虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

幽源の世逃げ その06



 あれから俺たちは街へ出た。
 まったく異なって見えるであろう光景を、反乱軍のリーダーことゴロムは目の当たりにする。

「…………」

「どう、かしら」

「……はっ。どいつもこいつも、昔のことを忘れてヘラヘラと……」

「そうじゃないわよ。そりゃあ改革を始めてすぐは、ゴロムの言う通り大人たちの中には反対する者も居たわ。でも、それでも信じてくれた。だからこそ、こうして笑えるようになったのよ」

 兵士は離れ、俺と【幽王】とで彼を連れて歩いていた。
 だからだろうか、彼らのやり取りはとても親し気である。

 もちろん、ゴロムなんかは敵意を隠していないし、【幽王】も決して隙は見せないように振る舞っているがな。

 さらに言うと、俺も俺で【幽王】が殺されないようにサポートをしている。
 そうでもしないと、兵士たちも安心して離れたりはしなかっただろうからな。

「──もちろん、全員が心の底から笑っているとは言わないわよ。それでも、そうできるようにと思っているわ」

「夢物語だな。まあ百歩譲って、そんな理想があることは認めるとしてだ……いつまでそのお遊戯を続けられるんだ? お遊び相手の人族が、お前と同じ気持ちだとでも?」

「そうね、絶対はない。人族が絶対に魔族に敵意を持たないなんてことはない。でも、それはこっちも同じよ。どちらがか譲り、相手もそれを受け取る……始まりが無ければ、いつまでもこのままよ!」

「だろうな。だが、これまでだってずっとそうだった。それは何故か? 人族も魔族も、分かり合えなかったからだ! 幽核が汚染している、ただそれだけの理由でどれだけの同胞が殺されたと思っている!」

 体が霊体なこの世界の人々だが、基本的な生体は自由世界とほぼ同じ。
 だが心臓に当たる物、霊核と呼ばれる代物によって生きている点が違う。

 この世界のあらゆる生命体が持つ霊核、それが邪気にも対応しているのが霊魔族だ。
 それを霊人族は穢れと称し、かつては殺していたりした……それが離別の原因である。

「俺たちがいったい何をした!? ただ過酷な環境で生きていただけだ! 命懸けで適応し、人族よりも強くなっただけ……それなのに奴らは、数の力で攻め立てた!」

「……それは」

「否定はさせねぇ、これは起きた事実だ。奴らは恐れたんだ、自分たちよりも強大な力をな。だからそんなときだけ同族の血で塗れた手を握り合って、その汚らしい手で俺たちを滅ぼしていったんだ!」

 前に言った通り、こちらの世界は寿命が自由世界の生命体よりも長い。
 物質体、つまり肉体を持たないからこその何かがあるのだろう。

 つまりは長命な寿命の持ち主が多いというわけで……根に持つ奴が、いつまでも残るということだな。


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