虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

幽源の世逃げ その03



 W40

 遥か西に存在する幽魔族たちの領土。
 そこに【幽王】が住む城、すなわち幽王城が存在する。

 この世界における魔族的存在である彼らには、魔物の性質が部分的に備わっていた。
 それゆえに人族からも魔物からも迫害を受け、その復讐をかつて行っている。

 当代の【幽王】によって、人族との和平は成っていた。
 簡易的な転移門を配置し、初期地点に築かれた人族の都市と交流を図っている。

「うん、とても楽しそうで何よりだ」

《交流を始めた直後は不満などは上がっておりましたが、時間を掛けてそれらを解決していきました。深層的に、人族との対話を望んでいた者たちを中心として、そうではない者たちの説得が行われました》

「そういう人ってのは、いつの世も力を伴えないで声が届けられないからな。【幽王】がそういう声を拾い上げて、しっかりと広められる環境を作ったお陰か」

 反乱軍が【幽王】の新たなやり方に異を唱えたように、幽魔族の中には人族との和平に苦言を申す者がそれなりに居た。

 代表者である男を捕らえ、強硬派はなんとかしたがまだ問題はあっただろう。
 物資的な支援はしていたが、それ以外のすべてを【幽王】はやり遂げたのだ。

「──そういう意味でも、ちょうどいいのかもな。否定した未来がそう悪い物でも無かった、そう教えるためには」

《旦那様、準備が整ったようです》

「了解。それじゃあ、行くとしますか」

 歩いて観光している内に、『SEBAS』がアポを取り終えてくれた。
 城に向けて歩を進めると、入り口で兵士たちに挨拶をして通る。

 一度は止められるかと思ったが、しっかりと伝達されているようで。
 ビシッと敬礼された俺は、苦笑しながら入城する。

「『SEBAS』、例の物は?」

《いつでも取り出せるようにしてあります》

「こういう場所じゃ、便利な服も着れないからな……いや、着てもいいけど外聞が気になるし。まあ、とにかく行こうか」

 アイスプルではよく着る、至るところにポケットが付いた服。
 そのすべてが擬似的な[ストレージ]なので、便利ではあるんだがな。

 見た目がよろしくないのは間違いない。
 なので休人、そして今では『プログレス』保持者なら誰でも使える[ストレージ]での持ち込みだ。

 ……武器とかも持ち込めるので、冒険世界などでは対策もされているんだよな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 許可を得て入った先は、王への謁見の間。
 玉座に座る少女の見た目をした幽魔こそ、この地を統べる【幽王】だ。

「──久しぶりね」

「お久しぶりです、【幽王】様。そうそう、和平条約締結おめでとうございます」

「ええ……ところで、今回ここに来た理由は本当なのかしら?」

「もちろんです」

 表立っての理由は、条約締結による恩赦にでもなるのだろうか。
 反乱軍のリーダーだった男、俺のアイテムによって収容された男を解き放つために。


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