虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

幽源の世逃げ その02



 幽源世界レムリア。
 霊体での存在こそを理としたこの世界は、遺失世界とされ俺が来るまで誰一人として来訪者を迎え入れていなかった。

 文字通り、鍵となる存在がなぜか冥界の奥底に封じられていたからである。
 その理由は冥界の主ですら知らず、今なお謎に包まれている。

 ……つまりは、誰もレムリア世界に辿り着かないというわけで。
 安易な選択ではあるが、この世界は基本的に平和なので避難場所としても最適だった。

「いやまあ、だいぶ前はいろいろと揉めてたけどさ……結局あれから、この世界ってどうなったんだっけ?」

《【幽王】による統治によって、幽魔たちは統率されております。同盟により、こちらの世界特有の素材とこちらでも利用できるアイテムをやり取りしております》

「幽魔はここの魔物で、【幽王】はたしかここの魔族的存在のトップ、つまり【魔王】みたいな感じだったっけ……ちなみに聞くが、【勇者】的存在は居るのか?」

《居ります。【勇霊】と呼ばれる存在で、これまでの【幽王】たちと相対して来た存在が就いていた職業でもあります》

 まさしく【勇者】ということだろう。
 前回の俺は【幽王】側で平和を目指していたので、そういった存在が居ることすら知る由もなかった。

 唯一覚えているのは、反乱を防いで人族に友好的だった【幽王】を勝利に導いたこと。
 だがそれも、たしか…………そうだ、案内人で燕尾服を着た霊人に言われたんだった。

「彼は……そうだ、二度目に来たとき迎えてくれたヤツはどうなったんだ?」

《幽魔族との平和条約が締結され、命に危機に脅かされることも無くなり、幽人たちは一つの場所に集まれるようになりました。彼が私たちを利用し、果たそうとしていた家族との再会はできたようですよ》

「そうか……そういう理由なら、利用されても仕方ないな。まあ、後からとやかく文句を言うのは止めておこう。あの時の俺は、たしかにやりきったわけだし。目的も果たせていたんだから、誰も不幸になってない」

 正確には、反乱軍だけはある意味不幸な目に遭ったわけだが……そうだそうだ、たしかアレを使っていたな。

「ちょうどいい、魔王城……もとい幽魔城に行くとしようか。例のアレ、とりあえず開封はしておこう」

《畏まりました。アポの方はこちらで済ませておきますので、まずは城下町へ転移いたします》

「うむ、気になるからそれもまたいいか。だいぶ前のことだったけど、魔族はこっちでも冒険世界でも人族より寿命は長いらしいし、まあ……受刑期間ってことで」

 うん、忘れていたとは言いませんよ。
 そんなことを思っている内に、俺は転移が起動したようだ。

 ──改めて、平和になった世界を見てみるとしますか。


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