虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闘技領域 中篇



 アイスプルに住まう民、そのほぼすべてが人の姿ではない異形──魔物である。
 そんな魔物の中でも、彼らは最上位の存在──『超越種スペリオル』や『災凶種ディザスター』という個体だ。

 前に神練で現れたアレ、[スノウエスト]が『災凶種』に該当する。
 それもだいぶ劣化していたらしいが、俺はだいぶ苦しめられた。

「だからこそ、原人からすると厄介ごとの種でしか無いし、休人からすれば最強の特典を落とす宝箱でしかない……魔物から見ても、自分が強くなるための糧だからな」

 彼らは強い、それゆえに制限が課せられてしまっている。
 通常の魔物、そして従魔師に使役された個体と違って復活がほぼ不可能なのだ。

 そういった能力を持つ個体を除き、死ねば討伐者に準じて特典が付与される。
 その際に復活に必要な情報が消費され、特典と化すのだ。

 不可逆の加工が行われるため、通常の蘇生だけでなく死霊術なども使えなくなる。
 時折生前の姿で召喚できる特典になることもあるが、それもまったく同じでは無い。

 なお、魔物に殺された場合に限り、蘇生そのものは可能だ。
 ただし、彼らにとってはいろいろと問題があるので、今回の仕様になっている。

「何が言いたいかというのアレだな……元通りになるのか心配になるって話だ」

 下を見れば地面が陥没し、深淵が覗けるかと思えるほどに巨大な穴が開いていた。
 上を仰げば雲に穴が開き、幻想的なほど陽光が神々しく降り注いでいる。

 右や左を見れば、歪なほどに多くの自然現象が今なお地面を痛めつけていた。
 炎、洪水、氷、暴風、雷、岩石、毒沼……それ以外にもさまざまである。

「なあ、風兎」

『……なんだ?』

「もう、守られる必要とか、無いよな?」

『だろうな。だが、それでも私は民たちの守護者であり続けるよ』

 風兎は魔物という枠から外れ、森獣から星獣となったさらに特異な存在。
 彼らは特典を落とさない、そして守護する領域が存在する限り何度でも蘇える。

 本来はスパンが設定されているが、星獣まで至るとそれもほぼノータイム。
 そうしてトライ&エラーを繰り返し、強引なレベリングをして強くなっている。

 すべては民たちを抑える力を保つため。
 何よりも民を大切にするからこそ、強くなるための無茶をしていた。

『──だが、これで重責から少しだけ解放された気分だ』

「? 知らされていない話な気がする……」

『だろうな。まあ、私から話さずともすぐに教えてもらえるのだろう』

 何かを企んでいたのは、間違いなくうちの万能執事AIだ。
 俺のためにならないことはしないだろうから、心配はしていないんだけどさ。


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