虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闘技領域 前篇



 アイスプル

「! ……うぅ、なんか悪寒がしたな」

《大丈夫でしょうか?》

「あ、ああ。気のせい……と思いたいが、残念ながら心当たりがあり過ぎるな。まあ、体自体に悪いことは無いだろう」

 なんとなく感じた悪寒。
 いちおう[ログ]を確認するものの、やはり死んだという記録は無かった。

 だが、複数の面倒臭いナニカが俺を襲う気がするんだよな……『SEBAS』っぽい気配もあった気がするし。

「それより、だ。ついにできたんだな?」

《はい。旦那様のアイデアから発想を得て、こちら──『闘技領域』が生まれました》

「闘技領域ねぇ……まあ、傍から見ても特に何も無いように見えるな」

 多くの魔物たちが切磋琢磨し、強くなろうとしているのがアイスプルの特徴だ。
 言い方は悪いが、犠牲の無い蟲毒のように強さが煮詰まっているんだよな。

「殺し合うと、たしか問題があるんだったよな。だからこそ、必ず死ぬ寸前で留めるようになっていた……そのため、全力で戦いたいときは迷宮に行っていたんだっけ?」

《そうです。ですが、迷宮での狩りには制限が設けられているため、全力を揮うことはできませんでした》

「なんだっけか……ユニーク種とかの討伐は厳禁だっけ。まあそうなると、今の成長限界に近いみんなじゃ満足できなくなるか」

《それらを闘技領域では解決できます。星の理を改変し、登録した者同士が行う領域内での戦闘において、経験値以外の移動が行われなくなります》

 経験値以外、ソレが意味することを理解している者はそう多くない。
 俺や『SEBAS』が懸念しているのも、それらが移動することによる影響だ。

 失われれば、魔物たちは死ぬ。
 しかも、蘇生は絶対にできない形で。

 すでに何体かの魔物たちがその領域に至っている、だからこその策。
 持っていない個体が倒した場合も、強制的に移動してしまうので困っていた。

 その問題を闘技領域でなら、解消されるということなのだろう。
 外部から来たその対象も、登録して無ければ普通に討伐可能だし。

「で、その結果……ああなったわけか」

《ヴァルハラのシステムを参考に、一定時間ごとに環境のリセットが行われます》

「ああ、壊れても問題ないと……いや、そういう問題だろうか?」

 怪獣大戦争、その言葉ですべてを物語ることができる。
 どうやら、風兎も収束のために頑張ってくれているし……うん、あとで謝ろうか。


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