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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

アンヤク 後篇(06)



 魔法世界

 イベント世界で行われた戦いの数々は、映像を記録する魔道具によって保存された。
 そしてそれらは各世界に運ばれ、多くの情報がその中から暴かれる。

「この魔法は初めて見るものだな」「属性は雷だが……火が起きている」「休人……星渡りの民がよく言っている『かがくちーと』という概念が当て嵌まるんじゃないか?」「それだ! すぐに調べるぞ!」

 魔法に関して貪欲な者たちが集まるこの世界でも、そうした情報はすぐに集められた。
 魔法師たちは挙って映像を眺め、気になる情報をすぐに検証し──解明していく。

「問題はコイツだ……意味が分からん」「冒険世界のアンノウン、ゴンベエ。偽名なのはどうでもいい、魔法を使っていることだけが重要だ」「発動しているのは全部ミニマム系だ、しかしその後の魔法はなんだ!?」

 中でも注目されるのは、ツクルが発動した魔法の数々。
 彼が『プログレス:グランドマロット』を介して発動するのは、最上級のものばかり。

「例の『プログレス』か……すでに実験も済ませているが、やはり望んだ能力にピタリとは嵌らんのよな」

「確かに不要ではないが、絶対に欲しい能力にもならないし」

「俺なんて魔法の射程が延びるだけだぞ。どうせなら、展開数を増やしてほしかった」

「……俺、回復属性特化だぞ? 攻撃魔法しか覚えてないのに、どうやって使うんだよ」

 彼らが口にする『プログレス』。
 冒険世界、そして休人たちから広められた新たな技術。

 特定の者を除き、誰でも自分だけの力を発現させられる謎の装置。
 当初は彼らも調べ尽くそうとしたが、結局すべてを暴くことはできなかった。

 その過程で、安全性は確認されている。
 より自身の理想に近しい魔法を生み出すため、新たな力を発現させる『プログレス』を魔法師たちは迷うことなく使用した。

 だが、彼らが望んだ通りに発現した能力はそう多くない。
 そうした者たちは、魔石を調整してそうなるよう研究をしている。

「一番の問題はこれか……本人の口から、魔法名は分かったがな」

「──“虚無イネイン”。空間魔法とは違う、いやそれ以上の魔法だよな。こんなの、うちの『八大星魔』様たちでも無理だろ」

 ──『八大星魔』。

 魔法世界における、『超越者』のような者たちの総称。
 一人ひとりが特殊な権能、そして名を冠するに相応しい魔法を持つ術師たちである。

 そんな集団であっても、今回ツクルが発動した“虚無”は使えないと魔法師たちは判断する……彼らの大半は、ある属性に特化する代わりに他がからっきしだからだ。

「……たぶん、あの人は行くんだろうな」

「場所も割れてるわけだし……ご愁傷様」

 それゆえに、八大星魔のうち一人が行動に出ることも分かっていた。
 ──それがいつになるのかは、まだ誰も知らないことである。


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