虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

アンヤク 中篇(05)



 武闘世界

 木造の巨大な道場は、闘気と熱気に満ち溢れていた。
 しかし、その空気とは裏腹に誰一人として口を開かない……否、開けない。

 それが可能なのはただ一人、その現状を生み出した者だけ。

「──弛んどるのぅ。これではまだ、師範の座を譲ることはできんではないか」

 地に這いつくばる多くの武人たち。
 彼らを残念な物を見るような目で眺め、嘆息する老人──ジーヂー。

 イベント世界での試合を終え、彼が最初に行ったのは鍛錬である。
 ツクルに敗れ、そのときに得た経験を体に叩き込むため──実戦形式で反省を始めた。

 その結果、更なる高みへ到達する。
 これまでも搦手を受けてはそれらを跳ね除けていたが、今回のそれはこれまでとは違い徹底して嵌めることに特化していた。

「──おじいちゃん!」

「おおっ、ヨ──」

「おじいちゃん!!」

「ナヨ、じゃったな……すまんすまん、どうにも慣れておらんでのぅ」

 そんなジーヂーの下に現れたのは、チャイナ風の服装を着込む少女。
 ナヨと呼ばれた彼女は、周囲の者たちなど意に介さず彼に近づいていく。

「おじいちゃんが負けた人……えっと」

「アンノウンじゃな。無論、偽名だとは思うがのぅ」

「あの大会、偽名だと全然報酬とか少ないのに……じゃなくて、なんで負けたの!」

「なぜ、と言われてものぅ……奴の方が一枚上手だったんじゃ。その後のゴンベエとしての戦い然り、まだまだ手札を隠し持っている様子じゃった。くっ、無差別部門に儂も奴も参加しておれば……」

 基礎縛り部門、その範疇ではあったが全力で挑み──そして敗れた。
 その結果自体に後悔など無い、だがいずれ必ず勝つと宣言している。

 本人には断られていたが、ジーヂーの都合の良い脳みそは、その記憶を消去済みだ。

「──もん」

「?」

「私が倒すもん! おじいちゃんの仇は、孫であるこの私が!」

「……ならば、今まで以上に修行をする、ということでいいんじゃな?」

「うぐっ! ……いいよ、やるよ。なんせ相手は、おじいちゃんに勝てる相手だもん。それならこっちだって、できることは何でもやらないと」

 ふむ……と顎を擦るジーヂー。
 自分で挑むのもいい、だがせっかくやる気になった孫娘に任せてみるのもありではと脳裏に浮かぶ。

(それに、そのうえでまた儂が挑めば良いだけの話じゃな。名も知らぬ強者よ、貴殿には感謝しておるよ。まだ届かぬ高みを教えてくれただけでなく、こうして孫娘の意欲を高めてくれたのじゃから)

 ──だが、それとこれとは話が別。
 シャドーをしてすぐにでも修業を始められそうなナヨの姿を見て、自身もまたやる気になるジーヂーであった。


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