虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

アンヤク 前篇(04)



 アイスプル

『──それで今、ツクルは頼まれ事を済ませていると?』

《はい。時間さえ掛ければ簡単に達成できる条件でしたので、問題は無いかと》

 ツクル──【救星者】無き世界にて、一匹の兎と一機の機械が話し合う。
 彼らは共に星の管理者に準ずる存在、主が居なくとも星の運営を行える。

《クローチル、かねてより進めていた闘技に関する計画ですが……旦那様よりご提案がありました》

『アイツが? 嫌な予感しかしないが……』

《私も賛同しております。おそらく、クローチルも納得するでしょう》

『まずは話からだ……民たちを危険に晒すわけにはいかない』

 世界の住民は、そのほぼすべてが魔物で溢れているアイスプル。
 その一体一体が、他の世界においては特殊個体とされる実力を有していた。

 外敵の居ない中、切磋琢磨した結果得たのは膨大なエネルギーとその運用技術。
 これまではそれをただ荒野で放っていたのだが……そこに手を加えようとしている。

《新たに理を追加し、コロシアムへ星脈を引き込みます。内部での時間遡行、獲得経験値の擬似ポイント化、それらを用いた景品獲得など……》

『待て待て待て、一つずつ確認していきたいところだが、これだけは最初に知っておく必要がある──ツクルのではない、お前の狙いは何だ?』

《──より良い世界のために》

  ◆   □   ◆   □   ◆

 冒険世界

「──やはりダメだったか……代表め、ここまで徹底して隠すとは。想定内ではあったものの、やはりこれまでとは一味違うか」

 ジンリは休人の街にて、書類仕事をこなしながら一枚の報告書を確認する。
 そこには、自身がツクルに依頼した仕事に関する情報が記されていた。

 本来、ジンリは最低でも二日は掛かると考えていた仕事だ……しかしツクルは、一日も掛からずそれを終えている。

「スキル不要な内務面は良し、と。戦闘系も先日の闘技大会が物語っている。だが……それでも異常だ。まるで、最適解を知っているような振る舞いだな」

 ツクルは『SEBAS』の指示通り動き、依頼を即座に終わらせた。
 ただし最短ではなく、怪しまれない程度に余分な行動を混ぜてはいるが。

 それでも、ジンリから見ればそれは最適解とも呼ぶべき過程だった。
 ……『SEBAS』の考慮する無駄とは、人にとっての差異程度でしか無いのだ。

「あの女の運の影響では無いだろう。それならば、もっと劇的な変化が目に見えるはず。つまり、これが代表の今回のランダムプレイの影響か……相変わらず読めない人だ」

 だからこそ、自身の上に立ち、周りを巻き込むために尽力してほしいのだ。
 そう思い、ジンリは新たな策を練り始めるのだった。


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