虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル後篇 その30
元『渡り船』副代表のジンリによる、人心掌握術は尋常ではない。
大半のヤツは、なんだかんだで彼を受け入れてしまう。
俺も特定の状況を除き、あっさりと提案に乗っては酷い目に遭っていた。
そして今、おそらくそれに近しいことをやろうとしている。
「──単刀直入に言う、都市の発展に強力しろ。より多くの休人を集め、国として承認させる」
「……相変わらずスケールがデカいこって。答えはノーだけど」
「国家としての認証には、複数の国による認可と国家会議での許可が必要になる。それ以外の要素はすでに満たしてある、重要なのはそれらだけだ」
「本当に聞かないな。もう分かっているんだろう? 早くメリットを言え、メリットを」
無言で立ち去るというのは愚策だ。
そうした場合、徹底的に追い詰めるのが常套句の男である。
なのでちゃんと話を聞いたうえで、きっぱりと断る。
自分でそれを納得できれば、大人しく引き下がるのがジンリスタイルだ。
「まず、代表の家族──」
「………………」
「──には手を出さない。支援を、と言っても信じぬだろうし、あの女が居る以上無用でしかない。無駄なことはしないつもりだ」
「……そうか。それで、メリットは?」
俺が威圧をしようと、どうせコイツには効果なんて無い。
それでもシステム的な動作補正を受けて、軽く口を噤ませることぐらいは可能だ。
「メリットはしばらく、俺が手を差し向けないこと。少なくとも、俺の意が届く範囲では何もやらなくなる」
「……全然足りないだろ、それ。具体的には何も明言されてないし、仮にそれが破られた時のリスクも提示されていない。そして、これが一番の問題だが──それでもお前の手の者が、何かしらの形で残るよな?」
偶然を装う、あるいは本当に偶然だったとしても、ジンリの配下として育てられていれば報連相は欠かさない人材になるはずだ。
つまり結果として、情報は伝わる。
自由を謳うジンリではあるが、少なくとも今回のケースの場合、俺が何もしないと自由が得られないというリスク付きだった。
「だから、メリットというのであれば、ある程度お前が譲歩しそうなものを挙げる。それに乗ってくれるなら、多少はやってやる」
「…………まあ、そこいらが妥協点か。いいだろう」
「はいはい、じゃあ条件を考えるからちょっと待ってくれよ。お前ら天才と違って、こちとら必死に生きてるだけなんだよ」
《──すでにいくつかのアイデアを検証済みです。こちらのリストからご確認ください》
本当に、凡才は辛いよ。
先んじて『SEBAS』が用意してくれたリストを、目を動かさないでリストの方を動かしながら確認。
……こういうところでも気づいてくる、厄介な相手なもんでね。
「────といった感じでどうだ? これ以上は妥協しないが、そもそもお前ならその程度と考えているはずだ」
「……それでいい。相変わらず、代表は面倒な男だ」
「はいはい、それでいいから。早くやることとやらを言ってくれ」
完全に断れなかった辺り、やはり俺はダメなんだろう……しかしまあ、最高の結果でなくとも俺的に最良の結果になったとは思う。
──問題とやらを解決して、約束を果たしてもらえばそれでいいさ。
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