虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その29



 隠れていればバレない……そう、思っていたんだけどな。
 なんというか、天才の目は誤魔化せないというヤツだった。

 普通に油断して歩いていたら、掴まってそのまま連行。
 現在はその犯人と相対する形で、カフェテラスに座っている。

「──優勝おめでとう、代表。相変わらずわけの分からん勝ち方ではあったがな」

「……どうも」

「つれないな。まあいい、せっかくこうして顔を合わせたんだ、もっと親身に語ってくれてもいいだろう」

「……その気持ち悪い口調、止めないか? タイプじゃないだろ、ジンリとしては」

 ジンリ──かつて俺が別のネトゲで代表を務めていた『渡り船』の副代表。
 適当な俺と違い、的確な……それこそ支配とも言えるレベルで統率を行っていた。

 まあ、支配と言っても強要とかは別にしていなかったからな。
 あくまでも、それを必要とした者に適切過ぎるアドバイスをしていただけだ。

 そんな彼は外面を引き剥がし、支配者然とした風格を放つ。
 ……ずっと思っていることだが、コイツがネトゲで副代表やってた理由がサッパリだ。

「──おそらく、代表は俺が副代表に甘んじていたのはなぜかと思っているな」

「……エスパーかよ」

「ただの心理学だ。単純な話、俺が好きだからと言うのもあるが……通常の社会では生きられない者が、ネトゲには多くいる。そのような者たちの中には、原石が眠っているからな。それを探す一環でもある」

「そういえば、お前の会社に就職した奴らも居たっけ……ホワイト過ぎて怖いって、ネットでもレビューがあったけど」

「ただの正当な評価だ」

 福利厚生は万全だし、土日祝もしっかりと休み、有休や育休などもちゃんと取れるし、何より給料が高い!

 長者番付にも載っている男、それがジンリという天才である。
 …………本当に、どうして副代表で満足しているのやら。

「代表やあの女のように、世界には支配できない……いや、支配しないからこそ価値のある者もいる。だからこそ、代表には旗頭としての役割を求めている」

「旗頭ねぇ……お前のことだから自由はあるだろうな。でも、俺以外の自由がどうなっているのか信じられないな」

「…………」

「さっきのだって、要するに放し飼いをするのと同じだし。どうせこれだって、大して意味が無いって分かっての交渉だろ? もういいだろ、本題に入ってくれ」

 ちゃんと時間さえ用意してもらえれば、天才の求めることもどうにか理解できる。
 間違いなくコイツは、厄介事を持ち込もうとしている……逃げようかな?


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