虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル後篇 その21
「ショウ!?」
《旦那様》
「っ……! あ、ああ……悪い、結局取り乱しちまった。分かっていても、クるものがあるんだよな」
《それが親というものなのでしょう》
ショウが【冒険勇者】から強烈な一撃を受けた……というわけでもない。
単に相手も終わりにする気となって、まずは弾き飛ばそうと剣を振るっただけ。
しかし、今までと違い相手は絶対に勝てるという可能性が無い強者……その捉え方もこれまでとは違って見える。
さすがにモンスターペアレントは無いにしても、【冒険勇者】に若干の苛立ちを覚えてしまう心の狭い俺。
ルリもルリで、たぶん似たようなことを考えていると思う……あっ、【冒険勇者】がくしゃみをしてる。
「けどなぁ、ショウ。その程度でどうにかならないのは、お前自身が十二分に味わっているだろうに」
まったく隙の無い相手、だからこそここぞのタイミングで動かなければならない。
周囲に[シャロウ]で展開した剣、そして自身も走っての独り連携プレイ。
剣は攻撃、移動、防御のすべてに用いられながら宙を自由自在に飛び回る。
それでも【冒険勇者】は、それらを捌く最適解を即座に理解して剣を振るう。
ショウもショウで、宙に浮かべた剣を蹴って立体的な機動で翻弄しようとするが、やはり星剣の攻撃予測機能を上回ることはできないまま、再び跳ね除けられる。
そして、ついに歩を進める【冒険勇者】。
その目的は、当然──ショウを一撃で仕留めるためだ。
「……逆に聞くぞ。アレを相手に、ショウはどうすれば勝てたと思う?」
《今回は何もかもが足りませんでした。レベル、装備、経験……そして『プログレス』。優位となるものが何一つないまま挑めば、相応の結果しか残りません》
「無理ゲーだった……というわけか」
《元より、【冒険勇者】とは冒険を目指す者たちの理想の体現。万能の体現者たる『騎士王』同様、通常の方法で上回ることはほぼ不可能かと》
……それができた【魔王】もまた、理不尽の権化というわけか。
まあ、【勇者】と【魔王】は相反する存在ゆえに、あちらは対策もしていたのだろう。
「──ここからが本題だが。これから先、勝ち得る可能性は?」
《充分に。おそらく、坊ちゃんはこの敗北を強く受け止めるでしょう。そしてそれは、深層心理に深く焼き付きます》
「……『プログレス』にも変化があると?」
《“チェインソウルズ”が正当な進化だとすれば、次に目覚める能力は今回の経験から学習した欲求の発露でしょう。派生、いえ特殊進化となるでしょう》
──ショウの刃は【冒険勇者】に届かず、少し力を出した【冒険勇者】の剣はショウの体に突き刺さる。
そして、アナウンスが鳴り響く。
……そうだな、残念会はちゃんと開いてやろうか。
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