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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その20



 突如退場した『覇獸』、だがすぐにルール的に問題は無いと判明した。
 そもそも無差別部門なので、あまりそういうところは気にしていなかったようだ。

 そんなこんなでしばらくして、四回戦──再びショウの姿が舞台上に現れる。

「……ここで来たか、【冒険勇者】!」

《旦那様、おそらくは……》

「ああ、俺とてショウが絶対に勝つなんて考えちゃいない。ルリがどれだけ祈っても、絶対に存在しない可能性だけは、どうしようもないからな」

 ショウの相手となる【冒険勇者】は、間違いなく最高峰の実力者。
 その剣は冒険世界において、並び立つ物なき『最強』の武器。

 この幻想世界であろうと、不完全ながらその性質は生きる。
 それゆえに、ショウは間違いなく敗北するだろう。

 その運命は、たとえ現人神となったルリであろうと干渉不可能。
 微小な確率を高める祈りの力では、0を1に変えることだけはできない。

「──始まったか。やっぱり、さすがに戦力差があり過ぎるな」

《彼の者には星剣だけでなく、神鎧もございます。装備すれば、無限の再生力と活力が与えられるとのこと》

「……おまけに権能で無制限転移までできるわけだし、どうしたら勝てるのやら」

 相手の武器の性能を絶対に超える剣、今使用しているのはそれだけだ。
 しかし、その気になれば述べた通りのチート能力がいつでも使える。

 それらを掻い潜り、勝利できるほどショウはまだ成長していない。
 相手は【冒険勇者】、冒険世界を代表する【勇者】であり、『最強』の星具使い。

「ショウは……様子見か。というより、いきなり“オーバーブレイブ”を使っても無意味だと察したか。そして、代わりに用いるのはアイテムっと」

《強化ポーション、機械兵器、そして魔道具など……多くのアイテムを持っていますね》

「それだけ冒険をしているわけだ。けど、それでもまだ遠い」

 魔道具と機械の内、攻撃を行う物が飛んでいくのだが──すべてが一瞬で潰される。
 全方位からの射撃も、星剣を突き立てて生み出す衝撃波で無効化していた。

 ショウはショウで、離れた距離から斬撃を無数に飛ばす。
 射撃よりは威力があるからか、しっかりと剣に当てて弾いている。

「……一歩も動いてないな、【冒険勇者】」

《これまでの試合でも、同様に一歩も動かずに勝利してきました。それが自身に課した制限なのでしょう》

「まあ、相手が『騎士王』とかだったらすぐに動くんだろうけどな」

《旦那様が相手でも動くでしょう。『生者』の権能を殺し切るには、不動のままではできませんので》

 ……なんとも複雑な心境だ。
 一方、ショウはついに[シャロウ]を発動させて周囲に多くの剣を浮かべる。

 同時に“チェインソウルズ”によって、自身の持つ剣に強化の性質を付与。
 速度が向上し、【冒険勇者】を翻弄しながら剣を振るっていく。

 冒険世界において、『剣皇』として名を馳せる星(鉱)剣使いのショウ。
 だが、【冒険勇者】の持つ星剣は、持ち主に『最強』の力をもたらす。

「剣技自体では上回っているんだがな……最適化機能が便利過ぎるな」

 かつて『騎士王』が言っていた、星剣の能力の一つ──最適な剣筋を見せる機能。
 そして、ありとあらゆる冒険世界のアイテムの能力を、星剣は再現できる。

 それらの能力を組み合わせると、視界に映る剣筋に合わせて、自動迎撃を剣自体に行わせることも可能だ……ショウの高速剣舞に対して、傷一つなく捌いているのがその証拠。

 ──しばらく経って、【冒険勇者】がショウを弾き飛ばした。


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