虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その17



 姿の見えない【獣王】はともかく、今は始まった試合に集中しよう。
 対戦相手である『覇獸』は『超越者』、逸脱した権能に果たしてショウは敵うのか。

「無差別部門だからな……うん、ああやって貯蔵しておくのは当然だよな」

 彼の権能は、喰らった存在の力を模倣するというもの。
 条件として、単独で討伐した存在でないとダメなのだが……まあ、結構軽い。

 そんなわけで、単独で多くの敵を屠ってきたであろう『覇獸』。
 発動させる能力は、つまり彼が倒してきた敵の軌跡といっても過言ではない。

 ──なお、その相手は問わない、魔物でなくても条件は満たされる。

「そんなチートな『覇獸』の能力に加えて、【獣王】お手製のオーブか……複数個ストックできるようにしておいたのか」

《魔石による方向性の操作によって、そちらの可能性を伸ばしたようですね。それによって、同時発動は一つではありますが、複数人が譲渡されたオーブの能力を扱うことができるようになりました》

「軍単位でオーブを使った強化なんてされた暁には、かなり面倒なことになるだろうな。まあ、十全に使うなら【獣王】と『覇獸』が居ないとダメだし、彼女本人の気質的にあまりやらなさそうではあるか」

 オーブを取り出した『覇獸』は、その身に能力を宿す。
 当然、それは自身が喰らった魔物の能力の一つ……それを権能と掛け合わせる。

 今回使われたものは、体中から大量の剣を生やす能力……ああうん、見覚えがあるな。
 ショウは突然現れた無数の刃に驚くも、すぐに冷静な対処を行っていた。

「まさか、殺したわけじゃないし……でも権能の効果的に、喰らう必要があったよな?」

《…………》

「その反応ってことは、やったのかぁ……本気なんだな、『覇獸』も」

 おそらく、了承の上で死闘でもやったのだろうな。
 少なくともあの虎は、タダで肉片を食わせるような存在とも思えない。

 そうして得た能力を、現在ショウにぶつけている……オーブの影響か、それは凍てつく冷気を放っていた。

「さて、ショウはどう対応するか……ん? おいおい、もう使うのか」

《相手は『超越者』、決して油断することはできません。あのような能力を使われてしまい、出さざるを得なかった、というのもあるかもしれません》

「かもしれないな。まあ、何はともあれ形だけは俺からの……いや、アイスプルからの贈り物だ。しっかりと使いこなして、ちゃんと勝ってもらいたいよ」

 ショウが取り出した一つのアイテム。
 狼を模したデザインが特徴的な、ストラップみたいな代物を強く握り締め、宙に抛る。

 すると、上空でそれは効果を発揮。
 舞台は突如として、刃に包まれる。

「──『孤軍破狼』……いや、『孤軍刃籠』の力を、見せてもらおうか」

 かつてショウが得たユニーク種の特典。
 同じ刃の性質を持つそれが、この戦いにどう影響を及ぼすかな?


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