虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その16



 翌日、ショウが先日の少女といっしょに行動する姿を目撃する。
 声を掛けようと思って近づいたら、まさかの発見……大人(ら)しく引き下がったよ。

「ショウのフラグ回収能力は、ルリ譲りの超高性能だな。俺にも……いや、やっぱり無くて正解だったか」

 ルリと出会い、オンゲー上でさまざまなトラブルに巻き込まれていた過去。
 そしてオフ会を行った以降、それはルリ関係のことに限り現実にも及んでいったのだ。

 俺自身が凡人である以上、その原因とも呼ぶべき存在は間違いなく彼女。
 なのに、自分でフラグ回収の力に目覚めでもしたら……ロクなことにならないな。

「まっ、ショウがどんな人生を歩んでも、応援するのが父親としての役割だよな。ふむ、もしハーレムだった時のためにも、今の内から考えておいた方がいいのかな?」

《──旦那様》

「はっ! ……そ、そうだな。やっぱり、こういうことは──」

《こちらですでに、いくつかシミュレートしたシチュエーションがあるのですが。よろしければ、お試しになりますか?》

「『SEBAS』……! さすが万能執事のAIだ! よし、やるぞ、やってやろう!」

 なんてバカな会話をしている内に、三回戦が幕を開く。
 昨日の個室へ向かい、撮影機材を準備……これは前からやっていたぞ。

「設営完了っと。さて、今日はどんな戦いになるのかな?」

 なお、この大会には【冒険勇者】も参加しているので、一筋縄ではいかない。
 他にも各世界の猛者たちも出ているだろうし、いっさい油断はできないだろう。

 それでも父として、息子の活躍を見て撮ることこそが最重要案件だ。
 他の試合もドローンで撮影しているが、しれは後回しである。

 人数も減り、三回戦で行う試合数は四回。
 一試合ごとの密度が高まっているので、試合時間そのものは長くなっているが、大して待たずにショウの番となった。

「ショウの相手は……っと、マジか」

 金色の虎耳を生やしたイケメン。
 歓声を上げるのは同様にケモ耳を生やしたり、また頭部が動物そのものな人々。

 彼こそが『覇獸』──現【獣王】の夫にして、『超越者』が一人。
 俺とも縁を持つ彼が、なぜかこの無差別部門に参加していた。

「いやまあ、【獣王】の方だったら納得だったんだが……逆に参加して無いんだよな?」

《はい。予選から姿は確認されておらず、目撃情報はございません》

「何かあったのかもな……ポーションでもそのうち、届けておこうか」

 共にある意味、俺という知人を持つ二人。
 先に一言二言話した後に、アナウンスの合図で戦いを始めた。

 正直、どっちが勝つか不明だな……さて、どんな結果になるのやら。


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