虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その03



 ──『アビリタプランナー』。

 だいぶ前に能力の概要だけ説明したが、この『プログレス』の効果は簒奪だ。
 ただし、その対象は『プログレス』に限定されるうえ、ちゃんと回復手段も存在する。

 それでもこの能力には、最悪の能力だという認識がされる効果が秘められていた。
 まあ、そもそも『簒奪』の力を目覚めさせるパーソナリティの持ち主だしな。

「──“グリード”」

 予め、『プログレス』側によって定められた条件を満たすと、発動する能力。
 名の通り『強欲グリード』に、『プログレス』の能力を奪い取ろうとするのだ。

「──バトルラーニング」

《結界操作による再現を実行します》

「では、触れさせていただきますよ」

「させるか!」

 条件の一つ、接触。
 シンプルに対象の『プログレス』そのものに触れることで、その能力を初期状態で奪い取ることができる。

 アカの『プログレス』は手甲に確認済み。
 そこへ向かうまでの手段は、あえて口頭紡ぐことで誤認させた体術で行う。

 元より『バトルラーニング』が無くとも、『SEBAS』がやってくれていたこと。
 今の俺は『セバスチャン』を常時起動しているので、この場でもそれが可能だ。

 抗うように武器を射出してくるが、それをサクサク躱していく。
 その都度、体が衝撃を受けるのだが……死ぬ代わりに『星命の鼓動』が脈動して蘇る。

「なら、展開──“魔道錬金・火炎”!」

「魔法……いえ、魔道具ですか。しかし、まだ届かない」

「届かせる──“風雷”!」

 魔道具の回路を模した陣を構築し、炎やら痺れる風を生み出すアカ。
 だが、『SEBAS』が操る俺の体はそれらを強行突破──宝石に触れる。

「“グリード”」

「しま……っ!」

 その瞬間、脳に情報が書き込まれていく。
 アカの『プログレス』がどういった能力なのか、知らないはずの知識がインストールされる。

「なるほど、だから徹底した赤色だったわけですね」

「っ……本当に、使えるのか」

 俺の目的は、アカの『プログレス』がどういった能力なのか知ること。
 そして、能力を奪うことにより一時的な弱体化を図ることだった。

 その目論見は上手くいき、僅かながらに攻撃の速度やら生成速度やらが低下する。
 ──赤に固執していたのは、相応の理由があったからだ。

「今すぐ貴方の力を使えるようにはならないようですね……残念ですよ。ですが、使い方は分かりましたよ。“神持祈祷:グランドマロット”──“極小闇ミニマムダーク”」

 小さな闇が現れると、その闇が一気に膨張してアカを襲う。
 これまでにない動きで、必死にその闇を拒絶する。

 そう、そうしないといけないのだ。
 赤を黒く染め上げられたそのとき、アカは弱体化してしまうから。


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