虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル中篇 その29

連続更新です(06/06)
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 それからというもの、一気に大量の客が俺の出す屋台の前に並び始めた。
 足りなかった信頼を、パフォーマンス的に証明したのが強かったのだろう。

 さまざまな注文を受けることになり──その大半を断った。
 あくまでも、俺がやるのは他ができないことだけ、そういうことにしているからな。

「そうでもしないと、働き過ぎで過労死する可能性があったからな……制限しておいて正解だったよ」

 片手で鍛冶、片手で裁縫、片足で錬金、片足で木工をやりながら呟く。
 同時に『プログレス:ワンダーハンド』を起動し、それぞれの作業の補佐を行わせる。

 体の一部が作業に従事していれば、俺の高い生産補正にあやかることが可能だ。
 それを生かし、部分的に触れたうえで作業そのものを能力に任せている。

 これもまた、パフォーマンスのように見えるだろうが、一気にやるにはこれが一番だ。
 注文通りにアイテムの耐久度や品質を高めると、持ち主たちに返還を行う。

「自動で返しておいてくれるのは便利だな。まあ、相手がちゃんと納金しないと恐ろしいことになるけど」

《[トレード]システムはその理論が難しいため、『プログレス』にも組み込めていないシステムの一つです。やはり、スキルや職業能力の影響を交えるのが難解な点かと》

「そこなんだよな……まあ、楽したいならそれで、安さを求めるなら直接でって感じの分け方をすればいいと思うけど」

 取り決めた額とアイテムを互いに出すと、どこに居ても勝手にそれらを交換してくれる便利な[トレード]システム。

 商人系の職業だと、同時に行える取引数や一度に出せる額が増えたりするが……まあ、その辺りは必要に応じて。

 今回のイベント中は、この闘技場のポイントで無ければ交換できない。
 なので値段交渉も機能していないため、全員が[トレード]で済ませている。

 俺はユニーク種の加工もできる職人ということで、高額を吹っ掛けて作業をしている。
 すでに何度か[トレード]を行っているのだが、まだクレームはゼロ件だ。

「ふぅ……これで一段落だな。さて、まだ何か依頼はあるか?」

《こちらがリストです》

「蛇腹剣、護符、教典、従魔用の装備……どれも他じゃできなかったか。蛇腹剣なら、他所でも可能だったんじゃないのか?」

《こちらは機械仕掛けの代物でして、盾にも変形できる機構が高度なため、鍛冶と機械技術を一定以上まで収めていなければ修理もできない物でした。つまり、旦那様で無ければできないということです》

 迷宮産のアイテムで、作った職人に頼るということもできなかったらしい。
 これまでは耐久度を回復するアイテムで直していたようだが……ふむ、面白そうだ。

「まずは:DIY:で簡易チェックして……うん、できそうだな。じゃあ、とりあえずはオーダー通りに加工してみようか」

 可能であればこうしてほしい、という要望も受け付けている俺の店。
 これで強くなってくれれば、ショウのライバルも増えてくれるはず……楽しみだな。


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