虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル中篇 その24

月末御礼の連続更新です(01/06)
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 賭けに応じた『学者』。
 特殊生産部門の特別ルールである、指定アイテムの破壊による勝敗判定を行うべく、自身のアイテムを教えてくれる。

「──これだ」

「それは……」

「そうだ、魔本だ。ただし、どれがそうなのかは言わないがな」

 複数本の魔本を切り替え、好きな事象を発動させている『学者』。
 いちおう、魔本そのものは体中に隠していて、絶対に破壊できないわけじゃない。

 なのでやるならば、全身に行う攻撃か特定しての攻撃で無ければ終わらないだろう。

「でもやりましょう──『展望の眼群』」

「……『浮遊目玉フロートアイ』のような姿だな」

「それで結構ですよ。彼の魔物同様、この瞳が答えを導き出します」

《──解析を開始します》

 イメージしたのは【情報王】がかつて行った、『プライベートアイ』を用いての魔眼の大量行使。

 生みだした『眼』の一つひとつが、さまざまな視点から魔本の解析を行う。
 それらを統括するのは、『セバスチャン』経由で俺に干渉する『SEBAS』。

 ダイレクトで無い分、少々お時間は掛かるものの……一つ、また一つと候補から外れていく。

「魔本開読──『竜の息吹』」

「──『巨神防兵』」

「魔本開読──『暴風の嵐牙』」

「──『凪の一時』」

 動かないゴーレムの壁だったり、真空状態だったり……とにかく頭を捻り、展開される魔本の効果を防いでいく。

 再発動までの時間はあるだろうが、向こうの能力でどうせ大幅なカットだ。
 何度か同じ魔本を使っているので、回数制というわけでもないだろう。

 問題は俺の記憶がいつまで持つか。
 この力──タクマの『メモリーメイカー』は、初期だとかなり面倒臭い。

 必要な記憶の鮮明さもそうだが、何よりも似た事象を引き起こしづらい。
 さまざまな厄介ごとに巻き込まれているからこそ、どうにかなっているだけだ。

 ──だがここで、解析結果が届く。

「では、そろそろこちらから行かせてもらいますよ──『侵し蝕む大雪獣』!」

「っ……なんだ、それは」

「とっておきの切り札ですよ」

 舞台に雪が舞い落ちる。
 そしてそれは獣の形を創り上げ、勢いよく咆えた。

 それなりに印象深い、[スノウエスト]を再現してみたが……上出来だ。
 対抗するように赤い魔本を開く『学者』だが、それは無意味。

「効かない、だと」

「おや、これでは特殊ルールを用いずとも勝ててしまうのでは?」

「……ッ、ならば──」

 そうして『学者』が展開するのは、魔法を封印した魔本である無地のモノ。
 そう、かなりの性能を誇った魔本──それこそが。

「──『万壊の破城槌』」

「しまっ……」

「これで、終わりです」

 一度しか使ってこなかったのは、それが壊されてはいけない物だったから。
 今回のルール的に、強化されることもあって選ばれた魔本を巨大な槌で破壊する。

≪決まった! フィロソフ選手の指定アイテムの破壊を確認! 勝者──ゴンベエ!≫

 その結果、俺の勝利が確定するのだった。


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