虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル中篇 その23
魔法が使えなくなった現状、おそらく予測されている俺の選択肢は限られている。
そして、誘導もされている……だから俺が選ぶのは、それができない新たな選択肢。
「──“神持祈祷:メモリーメイカー”」
「……なんだ、それは?」
「友人の力ですよ。定番じゃないですか、友の力で困難を乗り越える物語」
「確かめるか。魔本開読──『紅の波海』」
波打つ炎が広がり、舞台すべてを焼き尽くそうとする。
対する俺は、ただ思い出す……それだけで効果は発動する。
「そうですね──『昏き闇の瘴気』かな?」
支払うのは魔力、ただし魔法とは異なるプロセスを踏んで事象を現実に呼び起こす。
すでに完成した概念を起こすがゆえに、発動可能な魔本。
ならば、同様に済んだ事象──つまりは過去を媒介にした方法ならばどうかと考えた。
普通なら、ただの妄想で放った魔法という認識になるが──『プログレス』は違う。
魔法の才が無い俺でも最上位に近しい魔法が使えるようになるみたく、オリジナルの武技が生みだせたり……折り合わせているが、異なるシステムによって運用されている。
「……とても興味深い。今なお効果が持続している以上、媒介なしでの魔法は不可能に近いはず。それでもなお、現実して魔力による現象が発現している──大変面白いぞ」
生みだされた炎が瘴気に呑まれていく中、気にも留めず考察を始める『学者』。
やがて、炎が完全に消えた頃……魔本の色が再び切り替わった。
「魔本開読──『神聖ヲ尊ブ光ノ領域』」
瘴気を振り払うように、真っ白な本から放たれる膨大な聖気が展開される。
冥界の瘴気そのものならまだしも、あくまでも記憶の再現……あっさりと浄化された。
「……このままでは、これまでの繰り返しですね」
「だろうな。ただ魔法を撃ち続け、いずれは時間終了で判定勝ちか負けになるだけ」
「つまらないですよね……というわけで、こちらで勝負をしませんか?」
指し示すのは心臓、それが意味するのは戦闘不能以外のもう一つのルール。
指定したアイテムを破壊することで、勝利判定を得られる特殊な決まり。
正直、『学者』がそれに乗る必要はまったくない……が、『SEBAS』曰く──
《確実に乗ります》
《その心は?》
《これまでの会話から判断できることです。何より、この大会への参加そのものが必要性の無いことでした。つまり──》
《……ああ、なるほどな》
要するに、『学者』はただ論理的に動いているだけではないのだ。
そして、それを肯定するように──学者は魔本を閉じるのだった。
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