虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル中篇 その22



 相手が『プログレス』を多用しているのなら、管理者権限で能力を調べることもできただろう……だが、相手は『超越者』で権能そのものを解析したりはしていない。

 やったとき、どんな反発を受けるか分かったものじゃないからな。
 一部の者だけ、己の能力を知るために開示してくれたが……『学者』は非公開だ。

魔本開読オープン──『突き上がる地柱』」

「っ──“極小土ミニマムソイル”!」

 始まった頃に使われた魔法が、再び黄土色の魔本によって発動する。
 まだ解読で生み出した光の騎士が居るからか、その発動は開読によるものだ。

 そびえ立つ塔に対して、俺の土魔法は激しい地震を引き起こす。
 もちろん、『学者』も俺も適当な風の魔法で硬直は回避した。

 だが、揺れはそのまま塔を崩し、騎士をも巻き込む。
 そうして解読を用いた魔法が終了し……新たに使用可能となる。

魔本解読リリース──『暴風の嵐牙』」

 これまた開始早々に使われた魔法だが、運用方法が違うため威力が明確に違っていた。
 嵐だと思っていたものが、つむじ風だったのではと思えるほどの吸引力と破壊力。

 風は刃となって周囲を傷つけ、ズタズタに引き裂いていく。
 俺もまた、その餌食となる……が、体内に仕込んだ『心臓』が延命を行ってくれる。

「しかし、アレだ。いつまでも同じことの繰り返しはつまらん」

「……そうでしょうか。試行錯誤を繰り返すためには、必要なことでは?」

「分かり切っていることをやっても、結果は変わらん。魔本解読──『封魔の獄牢』」

「っ……魔法が!」

 肉体の修復をしている間に、『学者』が広げた無地の魔本。
 発動したその魔法によって、俺は魔法を放つことができなくなった。

 ここからは肉弾戦だ、とかそういう流れではないのがなんとなく分かる。
 使えないはずの魔法、しかし魔力を外部に放出しないならば運用自体は可能だ。

「相手の魔法を封じ、自分だけが魔法を使える環境を整えましたか」

「その通りだ。魔本開読──『蒼の焔』」

 青色の炎を揺らめかせると、こちらに真っすぐ放ってくる。
 どういう効果か分からない以上、受けるわけにはいかない。

「──『星護結界』」

 頭に付けたサークレット経由で、結界が構築されて魔法を防ぐ。
 接着点を見ると、そこが凍っている……氷属性の炎だったのか。

「やはり、『生者』は魔法を封じるだけでは止まらないか。しかし、だいぶ万能性が落ちたのでは?」

「さて、それはどうでしょうかね。ご自身でお確かめになられては?」

「最初からそのつもりだ」

 俺も魔法が使えなくなった以上、それ以外の手段で戦うしかない。
 ……こういうとき、逆に選択肢が多すぎて悩むよな。


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