虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル中篇 その21
巨大ゴーレムを倒し終えたが、俺の用意した小型ゴーレムもまた全滅。
その間、ただ読書をしていた『学者』に対して、俺は推論を述べる。
「少なくとも。魔本解読を使っている間、それが常駐型の場合は終わるまで他の魔本を使うことができないんですね」
「正解だ」
「否定、しないのですか?」
「知識を己だけで保持していても、意味が無いだろう。学びを求める者に、適した知識をもたらす。それもまた、『学者』としての役割だとは思わないか?」
矜持を果たすため、俺の考えを肯定してくれたのか。
正直、気持ちはさっぱり分からないが……強者の余裕、とでも受け取っておこう。
これまで解読を使ったのは二回──前者は光魔法を防ぐために、後者は先ほどのゴーレムである。
どちらでも、発動中は異なる魔本を起動することは無かった。
ただ、情報が少ないので、それがすべての状況でのことなのかは分からない。
だからこそ、部分的な推測となった。
絶対にできない、という考えでは不意を突かれるだろうし、心に留めておく程度にしておくつもりだ。
「答え合わせも済んだんだ。そろそろ、復習しようか。魔本解読──『炎魔の邪霊』」
赤褐色の魔本が開かれ、中から現れたのは炎で構築された創作物的な筋肉質な男。
現実ならありえないだろう、と思えるほどの大柄な体に黒い炎を迸らせている。
「──“極小氷”、“極小水”」
二種類の魔法を発動させると、俺のすぐ近くに巨大な水球と氷球が現れた。
そしてそれらが形を変え、水と氷でできた騎士たちが一斉に炎の男に攻撃を始める。
「ふむ、興味深い」
「何がですか?」
「魔法の核となっているのは精霊召喚系だろう。だが、水と氷の精霊と言えば女性型が多い……なぜあのような形で運用する?」
「…………妻帯者ですので」
まあ、ルリならむしろウェルカムと言いそうだが……子供たちも見ているしな。
騎士たちが頑張ってくれている間に、ポーションを飲んで再度魔法を準備。
「──“極小風”!」
「っ……真空にして酸素を抜いたか」
「さすがにバレますか」
風魔法で空気を抜いて、強制的に火を止めておく。
科学知識に基づいての戦略だったが、どうやら『学者』もばっちりのようで。
「ですが──“極小闇”!」
「目隠しか。魔本解読──『光の大聖堂』」
「重ねて──“極小闇”!」
炎の男は失ったが、そうなるとまた解読を使えるようになる。
光の魔法に闇の魔本をぶつけたように、その逆を行ってきた。
──だが、ここで俺は二回魔法を続ける。
魔本解読は一度、魔法を使い切る……つまり、すぐには同じ魔本を展開できない。
一度目の闇はすぐに振り払われたが、補うように新たな闇が光を襲う。
そして闇は光を呑み込み、消し去る。
そのまま残っていた水と氷の騎士たちが、『学者』の下へ向かう。
「よく気づいた。だが、まだ甘い。魔本解読──『神仕エシ聖ナル騎士』」
そう、魔本のデメリットである切り替えの手間を解消できる『学者』は、すぐさま別の魔本を開いて対抗してくる。
現れた光の騎士(物理?)たちとぶつかり合い、それぞれの騎士たちが消滅していく。
……いったい、何冊の魔本を持っているんだろうか。
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