虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル中篇 その20



 普段なら、『魔王の取腕』を使うことで権能の情報も時間次第で丸裸にできる。
 しかし、今はそれを持っていない……これまでの情報だけで把握する必要があった。

 対戦相手である『学者』について、現在分かっていることはまだごく僅かだ。
 戦闘スタイルは魔本による万能タイプ、今のところ肉弾戦の得意下手かは不明。

 なので、警戒するのはやはり魔本だろう。
 本来なら切り替えを都度やらなければならないはずが、【魔本王】に就いているから高速でできるらしい。

「そう、考えを止めるな。とめどなく流れる水のように、いずれ辿り着く大海を目指せ」

「……何のヒントですか?」

「ヒント? いや、そういった意図は特に無いがな。魔本解読リリース──『墜国の巨神兵』」

「こちらも──“極小土ミニマムソイル”」

 黄土色の魔本を開き、『学者』が発動させたのは巨大なゴーレムを生み出す魔法。
 名に相応しい大きさ、それは高層ビルと同じぐらいデカく見えた。

 対抗するように俺も、『SEBAS』が切り替えてくれた土属性系統の魔法を発動。
 まったく同じ魔法は無理だったが、小型のゴーレムを複数体配置する。

《必要魔力が多く、旦那様の魔力では……》

《999が限界だもんな。そうなると、向こうはいったいどうしているんだか》

《魔本は事前に魔力を充填し、発動時の必要魔力を最小限に抑え込むことができます。ですが九割以上を予め注ぐ必要があり、今大会のルール上では運用が難しいはずです》

《注ぐ際の無駄を無くす能力があったり、そういう補助系もあるとは思うけどな。まあ、一番の理由はアレだな──単純に保有魔力量が段違い!》

 休人と違い、能力値の割り振りができない原人。
 だが、本人にしっかりと適性があれば、休人以上に優れたビルドも組める。

 これまでの戦闘で『SEBAS』が推測するのは、魔力に重点を置いた割り振り。
 普通の原人と違い、『超越者』にレベル制限は無い……膨れ上がる魔力も相応のはず。

 ゴーレムたちが必死に全身を使って戦っているが、巨大ゴーレムはビクともしない。
 逆に攻撃でもないほんの僅かな挙動で、こちらのゴーレムは大破していた。

「ならば──“極小氷ミニマムアイス”!」

 小さな氷が生まれたかと思えば、一気にその冷気は伝導してゴーレムを凍らせる。
 完全には止められず、罅がすぐにできるのだが……ほんの少しならば、時間を稼げた。

「何もしてこないのが気になりますが、今は置いておきましょう──“極小火ミニマムファイア”!」

 凍らせた後、すぐに行う加熱。
 縮まったモノは再び解され、その耐久度がグンと落ちる。

 ゴーレムたちが必死に戦った結果……どうにかして、破壊に成功するのだった。


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