虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル中篇 その19
≪準決勝第一試合──開始です!≫
合図を聞き、先に動いたのは──俺だ。
対する『学者』は余裕そうに、本をペラペラと捲っている。
先手は譲る、ということなのだろう。
俺はそれに応えるべく、祈りを捧げてすぐさま準備を整えた。
「──“神持祈祷:グランドマロット”」
「例の杖か」
「では、お試しください──“極小火”」
使える魔法にリンクし、使えない魔法を発動できるようにする『プログレス』。
理論上、どんな魔法でも組み込めるが、意図して同じ属性の魔法にしてある。
小さな火種から繋がるように、今回の炎は会場を包み込む。
そしてその勢いのままに、『学者』をも炎が襲おうとする。
「魔本開読──『神代の激流』」
いつの間にか、読んでいた本の色が白から青に変わっていた。
そしてキーワードのような物を呟くと、大量の水が溢れ出す。
《魔本開読。『学者』の持つ魔本が秘めた能力を、部分的に開放するものとなります》
《まあ、そのまんまだな……しかし、よく予選の間に用意できたな》
《『学者』の権能に複製補正があります。最低限、製本に必要な材料のみを集めるのであれば問題なかったのでは?》
《普通、本を作るのは苦労するから、本好きが頑張る話が書籍化されたんだけどな……まあ、とにかく理由に関しては考えなくてもいいか。今はどう戦うかを考えるべきだな》
本来、魔本は作るためのコストが高いからこそ相応の性能を発揮する。
準備こそ難しいが、だからこそ厄介さが増すわけだ。
「──“極小風”」
「魔本開読──『暴風の嵐牙』」
「──“極小雷”」
「魔本開読──『突き上がる地柱』」
俺の発動する魔法に対して、『学者』は適した魔本の頁を展開して防御を行う。
厄介なのはその万能性、適正に関係なく魔力さえあれば魔本は使えるからな。
「どうした、その程度なのか?」
「っ……“極小光”!」
「ふむ……魔本解読──『深淵の揺り籠』」
「なっ……!?」
隠し札の一つ、光属性の極小系魔法を使ったが、これも普通に無効化。
問題は、これまでよりも規模も性能も高い魔法を使ってきたこと。
《魔本解読。これは一部のみを発動させるのではなく、魔本に刻まれた術式をすべて消費する代わりに通常以上の性能を発揮することができる方法です》
《つまり、もうアレは使えないと……いちおう、また使える前提で戦おう》
《畏まりました》
相手は理不尽の権化『超越者』。
何をしてもおかしくはない……絶対ということはないからな。
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