虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル中篇 その15
改めて情報を確認しよう。
今回『造槌』が造ったのは、冒険世界の星具『冒険星剣[アドヴェンス]』の模造品。
アレから時間も有って、しっかりとした調査ができていた。
過去の伝承からさまざまな情報を集め、分かったこともいくつかある。
それはともかく、今は正規品の能力について考察を続けよう。
「最強の武器、それを超えられるとは……私も満足です」
「…………」
「できていないだろ、と仰りたいのは分かります。しかし、宣言であり宣告であり──宣誓でもあります。さぁ、共に踊りましょう」
「……っ!」
俺も『造槌』も、剣士ではない。
どちらも優れた剣技など持ち合わせてなどおらず、稚拙な闘いしか行えない──そう会場のほとんどが、思っていたことだろう。
だが、正規品である[アドヴェンス]の能力は『最強化』。
冒険世界に現存する、ありとあらゆる武器に負けない一振りと化す。
そしてその効果は担い手にも及び、かつて見た際その力は剣技にも通っていた。
模造品である『造槌』の[アドバンス]にも、その機能が備わっているのだろう。
「たとえ最強でも、無敵じゃありません」
俺の動きはさまざまな武人、武神から学習した戦闘データに基づいている。
普段は『バトルラーニング』で行っているが、『SEBAS』も似たことが可能だ。
仙人、騎士、侍……和洋問わずあらゆる戦闘スタイルの使い手たちと戦い、その結果得てきた膨大な数の記録。
それらを瞬時に使い分けることで、対処不可能な状態に追い込んでいく。
その結果、僅かながらに防御よりも攻撃の頻度の方が多くなっている。
模造品の[アドバンス]によって、最適な動きをしている『造槌』ではあるが、剣一本で勝てるとは思っていないようで。
時折動きを切り替えて、槌で地面を叩いては、剣を生み出して射出してくる。
対する俺は『星核の武玉』を上手く使い、それらを撃ち落とす。
「──“星気弾”」
纏わりつく星のエネルギーを、剣の先から飛ばす技。
それを発動した後は、体が勝手に動きを計算して合わせてくれる。
飛んでくる剣と[アドバンス]を同時に相手取りながら、その上で攻略を進めていく。
勝利条件は二つ、擬似HPの全損か相手の選んだアイテムの破壊。
「ところで『造槌』さん、貴方の指定したアイテムは何でしょうか?」
「…………」
「沈黙ですか。では、そのまま進めさせていただきますね」
「っ……!」
正直、俺はどちらの方法でも勝てる。
たしかに死亡後の制限時間はあるが、それでも勝てるという自信があった。
今なお学習を重ね、『セバスチャン』経由で猛攻を仕掛け続ける。
完成品として成長が無い剣技で、いつまでも持つわけないからな。
「もう一度だけ聞きます。指定したアイテムとは、いったい何でしょうか?」
「…………」
「そうですか、槌でしたか。では、私の方も宣言をしましょう」
あえてこのやり取りをしたかったのだと、『造槌』も理解しただろう。
俺は不敵な笑みを浮かべて、自分の体の一部を指さす。
「──心臓、今の私は己で生み出した心臓こそが指定したアイテムです」
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