虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その30
俺が訪れたのは聖堂。
すでに一度訪れたことのある場所だが、その目的は前とほぼ変わらない。
「──ルリ、会いたかったよ」
「ええ、私もよ」
周囲の者には分からなくして、愛しい妻の名前を呼ぶ。
便利な[メニュー]機能によって、休人名が他の者には聞こえているだろう。
なんてどうでもいいことはさておき、彼女はソファに座って俺を待っていた。
現実と同じ容姿、違うのは目と髪の色、そして額についた宝石だけ。
そんな彼女こそ、『命運の女神アズル』として崇め奉られている【神聖女】。
現人神にして開祖、生まれながらに神に愛されたような……俺の奥さんだ。
「本当、俺ってこの先いつ死んでもおかしくないな。いや、こっちだと息よりも死ぬことの方が多いけど」
「そんなに虚弱なの?」
「ああ、かなり。今だと、ルリの放ってる神の力の残滓で死んでるな。まあ、死んでも別にここからいなくなるわけじゃない。さっそく本題に移るとしよう」
聖なる力で死ぬと言うのも、滅多にない経験である。
……結界を使っていても届くとは、どれだけ強い力なんだろうか。
まあ、そこは改良するとして、前に会ったときは『騎士王』が居て話せなかったことを話すのが今回の目的だ。
休人云々を理解している『騎士王』にも、全部を打ち明けているわけじゃないからな。
「──まず聞きたいんだが、ショウとマイは楽しんでいるか?」
「もちろんよ。二人とも、無制限部門に向けて張り切っているんだから。私は裏方のお手伝いだから参加しないけど、アナタの活躍もしっかり見ていたわよ」
「そりゃあ嬉しい。あのお爺さん、だいぶ強くて焦ったぞ……『SEBAS』が言うには『闘匠』を持っているらしいから、ショウといつか戦うことになると思うぞ」
「あら、それは大変。けど、あの子なら勝てるわよ。ショウは強い子だもの」
レベル的なことではなく、精神的に強いのがショウだ。
だてにルリの息子として、さまざまなトラブルに巻き込まれていたわけじゃ──
「だてにアナタの息子として、いろんなトラブルに巻き込まれていたわけじゃないもの」
「…………」
「どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
無自覚なルリの幸運チート、その正当な継承者であるショウ。
断じて、俺が不幸な体質だから……というわけじゃない。
「こほんっ! 明日からは特殊生産部門、つまり俺無双だ……期待していてくれよ」
「ええ。私も回復反転部門だったら、間違いなく優勝できたのに。前にあったのよ? でも、一回しかやってないのよ」
「……それは、仕方ないんじゃないか」
回復が攻撃になるということだろうが、間違いなくルリの独り勝ちだろう。
うん、いかにルリが求めていても……さすがに不可能なことは存在するのだ。
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