虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その28
体を通り抜けた翁の拳。
それは一定確率で発動するという、森獣からの加護による──亜空隠蔽。
空間に干渉する森獣──孤狐だからこそ、与える加護もそういった効果となった。
そしてその能力はお察しの通り、その身を亜空間に存在するものとする。
「アレはどう足掻いても避けられない破滅ではありますが、貴方自身であればどうにかできますので」
「貴殿は……いや、何も言うまい」
「ええ。どうかこのままで、今終わりにしますので──『疫死の禍風』」
俺を通り抜け、虚無へと近づく翁。
その速度を推し進め、俺自身を遠ざけるために発動させる疫病の風。
疫病そのものに期待はしていない。
だが起きる風は強力で、望んだ通りの方向へ俺たちを進める。
「次は負けんからのぉおおお!」
「二度とごめんですよぉおお!」
なんて言葉を交わしたのち、翁がまず虚無の中へ呑み込まれる。
そしてそれら数秒、俺も虚無へと結局呑み込まれて──視界が切り替わった。
≪──勝負あり! 共に謎の穴へと吸い込まれた二人ですが、御覧の通りそこには差がありました。というわけで、勝者は──アンノウン!≫
どこかで歓声が上がっている。
敗者、そして勝者でも死に戻り判定を受けた者は控え室へと飛ばされる仕組みだ。
翁もどこかで、アナウンスと歓声を聞いていることだろう。
グーっと伸びをしながら、そんなことを思う……しかしまあ、ギリギリだったな。
「ある意味ここが正念場だった。:DIY:が使える分、特殊生産部門の方はもっと簡単に進められるだろうし」
《間違いないかと。旦那様、大変素晴らしい闘いでした》
「ありがとうよ。だいぶ強かったしな……あの能力、結局何だったんだ?」
なんとなく予想はしていたものの、結局正解は分からなかった。
だが、『SEBAS』であれば把握しているだろう……確信しての質問だ。
《ジーヂーの能力は『アーツクリエイター』です。オリジナルの武技を製作することに特化した能力と言えるでしょう。そして、彼は『闘匠』保有者でした》
「……だいたい予想通りの能力だったのはいい。けど、まさかの……ってほどでも無いよな。ああ、あの爺さんなら納得だ」
休人限定の[称号]で、それぞれが頂点としての力を持つ『天』シリーズ。
それらの持ち主はたった一人、それゆえに得た者が常に持ち続けられる代物ではない。
得る資格を持つ者が有する[称号]こそ、『匠』シリーズと呼ばれるもの。
中でも『闘匠』は、ショウが持つ『闘天』へ挑むための証でもあった。
「いずれ、ショウに挑む可能性もあるわけだな。俺は挑む気無いし、むしろ枠を確保して邪魔をする気だが……ここはショウの自主性に任せるとしますか」
何でも親が対処していては、子供の成長など見込めない。
信じている、ショウならば俺が苦戦した翁にも勝てると……俺とルリの息子だしな!
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