虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その26



 俺がセットしている[称号]は『生者』。
 これは特別なことが無い限り固定、付けているだけで[称号]のセット枠が5つも拡張されるからな。

 そちらを付け替えた結果──『命懸けの愚行』、『貧弱な武力』、『闘匠』、『全額身払い』、『人間爆弾』をセット。

 加えて、生と死に関する[称号]を複数内包している『生者』そのものが機能する。
 確実に1ダメージを与え、じわじわと攻めるが……やはり時間が足りない。

 何度も『バトルラーニング』で動かす体がぶつかり合い、『人間爆弾』の効果で爆発してダメージを追加で与えている……それでも翁の自然回復が上回っている。

「甘いぞ。どういう絡繰りか攻撃は通っているようじゃが、その程度はすぐに治る!」

「そのようですね……しかし、何もしなければの話ですよ──『撲殺の拳帯』」

 黒い帯状のアイテムを手に巻いて、改めて拳をぶつけ──合おうとしたが、とっさに拳の打点をずらす翁。

 そのせいで少ししか掠らせることができなかったが、効果はてきめん──生命力が一気に一割を切った。

「……なんじゃ、それは」

「貴方にご協力していただきました、産物とでも呼びましょうか……効果は実際に味わってもらった通りです」

「やはり、厄介じゃな。うむ、だがそれゆえに閃いた。そろそろ終わりにしようではないか──“生危回壊”!」

 俺が黒い帯を巻いたのであれば、翁が巻いたのは白い帯。
 物凄い勢いで警鐘が鳴り始めたが、それでも知るために拳をぶつける。

 体が耐えきれず腕が弾け、そのままの勢いで壁に打ち付けられた。
 それでもなんとか起き上がり、腕の修復を待とうとした……が、修復は始まらない。

「無駄じゃ。この技は貴殿の根幹を断ち、しばらくいっさいの反応を受け入れなくする。すなわち、『げーむ』的なことは無効化される。人の腕が、そう容易く生えるわけがなかろう」

「…………これは、不味いですね」

「ならば受け入れよ。これこそが貴殿を終わらせる一撃だと──“生危回壊”!」

 確認したところ、『状態異常:特殊固定』という症状に陥っていた。
 つまりやられた部分は、それが解消されるまでずっとそのまま。

 普段なら死んですぐに治せるし、そうでなくともポーションでも使えばいい。
 だが、今だけはできない……失われた腕に関しては、諦めた方がいいだろう。

 ──勝つことは諦めていないがな。

「──“神持祈祷:フロートアーム”」

「これまた奇妙な……宙に浮く腕で防御をするとはのぅ!」

「──“神持祈祷:ワンダーハンド”」

 放たれた一撃を宙に浮く腕を生み出す能力で防御し、さらに似通った能力を使用する。
 破損されたため、リキャストに時間が掛かる以上そのままにしても無駄だからな。

「これで終わりにしましょう。私も、そして貴方も!」

「終わるのは貴殿だけじゃ!」

 生みだした腕を操り、掌に着地した俺を上に飛ばしてもらう。
 当然のように、何らかの手段で翁もまた空へ舞い上がる。

 もう、時間もあと僅かだ……最後の最期、足掻いてもダメならもう諦めよう。
 しかし、可能性がほんの少しでもあるならばとことんやってみる。

 そうした姿の方が、子供たちも妻も喜びそうだしな。


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