虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その18



 ……勝った心地がしない。
 死後硬直(仮)が解除される寸前、それほどまでに追い詰められていた。

 もし加護を貰っていなかったら、また別の手段を取る必要があっただろう。
 しかし、大抵の方法は【暗殺王】も対策済みだろうし……粘られた可能性が高い。

 今回それを成功できたのは、森獣の加護に加えて聖獣の加護もあったからだ。
 本来、補正が文字通り『微々たる』ものな粘度変化を、より強めてくれたからな。

「しかしまあ、どうして【暗殺王】はここに居たのやら。『SEBAS』、分かるか?」

《旦那様が狙いというわけではなく、あくまでも依頼を受けてのことのようです。ただし標的を狙うのではなく、目的を果たすという形でのもの》

「……つまり、人殺し以外でやるべきことをやろうとしているってことでいいか?」

《そういった方向で間違いないかと》

 よく分からないが、【暗殺王】にも何らかの目的があったわけだ。
 そして今回、偶然俺と相対してしまったということ……理由とは何なのだろうか。

《確認したところ、初心者部門に【暗殺王】の分体らしき参加者が居たことも確認が取れました。全部門に参加して、何かの目的を果たしているのかと》

「……逆に言うと、必ず特殊生産部門にも出てくるってことじゃないか。ハァ、面倒そうなフラグが立った気がする」

 今回のやり口もバレたろうし、次への対策も考えなければならない。
 正直、今回はやり過ぎた……だがあれぐらいしないと、勝ち目など見えなかった。

 相手は非合法な街で君臨する強者の一人。
 多少のルールで制限を課せられていようとも、その気になって動けばそれなりに厄介なことに違いはない。

 現に、半分以上死んだ状態ではあったが、何度も殺されていたわけだし。
 いつものように軽い死を繰り返すわけでもなく、確実な死を何度も引き起こされた。

 ──まったく、俺じゃなかったら負けていたかもしれないぞ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪赤コーナー、冒険世界より参戦。まさかの番狂わせはいったいどこまで続く。トリックスターのパフォーマンスは、この準決勝でも私たちを楽しませるぞ──アンノウン!≫

 だいぶ司会もノリノリになっていた。
 舞台に上がる俺を、さすがの観客たちも少しずつ受け入れつつある。

 ブーイングが大多数なのは変わらないが、その中に若干の声援が含まれていた。
 もちろん、うちの家族は最初から応援してくれていたがな!

≪青コーナー、魔法世界より参戦。数々の対戦相手を封じてきた魔法は、彼を退場に追い込むことはできるのか──ぼんぬ!≫

 なんともシュールな名前だが、ここまで勝ち残ってきた実力は折り紙付きだろう。

≪それでは、準決勝──開始!≫

 注意して挑もう。
 そう思った矢先──俺の体は爆発した。


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