虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その17
タイムリミットは一分を切った。
とはいえ、戦闘においてそれだけの時間があれば充分に戦い抜ける。
相手は暗器の扱いに長けた【暗殺王】。
しかもその肉体は、弱みを打ち消し人よりも優れた部分しか存在しない、物理攻撃を無効化できるスライムボディ。
俺が使う武器は、大会用の補正がまったく入らない武骨な短剣。
対する【暗殺王】が使うのは、【暗殺王】の『プログレス』──『リキッドナイフ』。
武器性能からして圧倒的に違う。
耐久度が無限ならどうにかなったかもしれないが、そこは普通に存在するため……たった今、短剣を斬られた。
「ですが、そう簡単に諦めるわけにはいかないのですよ」
「……自分に」
「まだ、間に合います──『刺殺の死剣』」
武器が失われても、すでに死んでいる以上『死天』で武器を作ればいい。
武器がロストする直前、己が心臓に刺した短剣──そこから新たな武器が生まれる。
武骨なのは変わらない。
だがそこに秘められたエネルギーは、異様なまでに禍々しい代物と化した。
効果はシンプル、刺せば死ぬ。
その恐ろしさは、【暗殺王】にも伝わったようで……時間さえ稼げば勝てると分かっているので、逃亡を図りだした。
「逃がしませんよ」
「……!」
「この剣は何度でも、何本でも増やすことができますよ?」
剣を体の一部に刺せば、それだけでその回数分の剣が生成される。
それらを『バトルラーニング』に委ね、投擲させれば……死の刃を降り注いでいく
「とまあ、こうなれば貴方の取るべき行動は一つだけ」
「……!」
「それでは──正々堂々、戦いましょうか」
反転し、俺の下へ迫る【暗殺王】。
やるべきことは無力化、つまり投擲ができないように腕を切断するといったところだ。
握り締めた『リキッドナイフ』が、少しずつ【暗殺王】の体内へ取り込まれていく。
名の示す通り、液状化することでそれを可能としているのだろう。
そして、内部ではおそらく【暗殺王】が仕込んだ何らかの成分を吸収している。
それを耐性貫通の効果と共に、武器化して腕を切除する……こんなところか。
「想定さえできれば、『バトルラーニング』に不可能などございません」
展開した無数の死剣を、【暗殺王】の体の至る所から飛び出す『リキッドナイフ』に当てて相殺していく。
向こうも向こうで、触れないように自身から『リキッドナイフ』を射出する部分ごと切り離している。
そうして短剣同士をぶつけ合い、互いの距離を詰めていく。
触れ合うほどの距離になったとき、互いの攻撃が掠り合う。
「くっ……」
「…………!」
「効かないならば何度でも、やらせていただきましょう──『激流の死水』」
「……!?」
だがそんな状況で、俺が生みだしたのは膨大な量の水。
水流に呑み込まれるように、体はそれに耐えられず動きが止まってしまう。
もちろん、【暗殺王】ともなればすぐに動くこともできるだろう。
しかし、今の俺はそれよりもほんの少しだけ動くことができた。
「──これなら通じますね」
剣を刺し込もうとすると、体から伸ばした『リキッドナイフ』で剣を弾く。
だが、俺はそれでも手を伸ばして体に触れる──その途端、【暗殺王】が硬直する。
「いい加護を貰いました……では、これにて終わりです」
水による拘束とは違い、加護──水飴熊から貰ったそれは水の粘度操作による拘束。
やはりまだ対策されていなかったようで、用意した剣は体を貫くのだった。
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