虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その16
すでに俺は死亡している。
本来であれば即退場なのだが、強制退場の条件はあくまでも肉体の再構築を実行するタイミング。
俺はそれを[称号]の効果で遅延させ、本来ありえない延長戦を行っている。
相手は【暗殺王】、持ち得る手は可能な限り残したいが……そうも言っていられない。
「“極小水”──『溺死の水泡』」
「っ……」
「水の覆った部分が、呼吸不可になるわけではありませんよ。水に触れた時点で、一巻の終わりだとお考え下さい」
いかにスライム種の【暗殺王】と言えど、死の概念そのものには抗いようがない。
おそらくだが、本体じゃないのだろう……基礎縛りに合わせたスペックか。
溺死の因果を強化した水泡は、触れた瞬間に対象を取り込み、脱出不可能な水の檻を構築するだろう。
とはいえ、いかに『死天』が生みだしたアイテムでも、水の泡は比較的回避が簡単だ。
だが圧倒的な回避はしておらず、あくまで常識の範疇で避けている。
代わりに暗鬼を何個も投擲してくるが、それに関しては変わらずノーダメージ。
……正確にはもう減る物がないので、時間経過以外に俺を追い詰められないだけだが。
「“極小雷”──『死電の雷撃』」
「っ……!」
「使えない、とは言っておりませんので」
一部の【見習い魔法士】は、条件を満たすことで【魔法士】へ就職後に少し多めに魔法が獲得可能になる。
その一つが“極小雷”。
静電気以下の微弱な電流だが、俺にとっては致死攻撃──そしてそれが、新たな武器を生み出すことになった。
「さて、耐えることはできますかな? 内部から、電気の熱で焦がされてはたまらないでしょうに……貴方の場合は特に」
上位のスライムは熱変動に対する耐性は高くなるのだが、細胞の内々まで焦がす電流熱に関してはさして強くはない。
それを『死天』が生みだした超強力化した電気で行えば、その効果は絶大。
水泡と組み合わせて追い込んだ結果──肉体の維持を止めて、緊急脱出を図る。
「やはりでしたか。しかし、姿を晒してでも倒すべき相手が居るというわけですか……構いませんよ。縛りのあるこの場ではございますが、全身全霊を以って応えましょう」
「──『リキッドナイフ』」
「ええ、正体が分かれば使うと思いました。武骨で大変申し訳ありませんが、こちらも短剣でお相手させていただきましょう」
隠し条件を満たし、【見習い魔法士】から得られる超微力な魔法はコンプリート済み。
たとえ相手が【暗殺王】であっても、この縛り中ならある程度戦えるだろう。
問題は、体が送還されるまでの制限時間。
死を司る暗殺の王が、そのことに気づいていないわけがない……早め早めの決着が必要となるだろう。
──正真正銘、これで終わりになるってことだな。
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