虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その15
ノーネームを観察する。
既知の気配を感じ取ったのだが、それより何より殺気に違和感を覚えた。
俺を殺していないそれは、本来ありえないはずの気配遮断。
無いからこそ有る、矛盾した気配が殺気を感じ取っていた。
「……お久しぶり、ですかね」
ビクッとする、なんて露骨な反応はない。
だからこそ、余計に確信が持てた……それほどまでに優秀な暗殺者はレアだし。
(【暗殺王】か……いやまあ、たしかに原人も参加できるから問題ないし、容姿を知られても中身は普段使いのものとは別にしているだろうから問題ないのか)
参加理由は不明だが、わざわざ基礎縛りに出ているのには目的があるはず。
……俺の暗殺だとしたら、まあそれはそれで納得なのだが。
(称号『最大暗殺対象』の効果は、どんな些細な攻撃でも暗殺系職業に就いている奴から受けるなら致死攻撃になるというもの。控えに回していても効果は発揮するから、今回もまたそうなっているんだろうな)
そりゃあ犯罪者がそれに関する[称号]を隠せたら、ロクなことにならないだろう。
そのためか、控えに回しても効果は発揮されるモノは多い……だいたいデメリット系。
「ふぅ……お手柔らかに」
「…………」
すでに対策はされているが、昔使っていた片栗粉戦法は使えない。
アイテムの持ち込みは武器以外不可能なので、そもそも不可能なのだ。
つまり、使えるのはほぼ自分の体のみ。
だが、その体だって普人と【暗殺王】の種族──スライムでは優位性が全然違う。
物理無効って、こういうときには最悪なほどに効果を発揮する。
なんせ、物理無効を突破できる武技は高位のモノ……基礎だけじゃ不可能だ。
そうなると魔法が有用だが……対策されているされていないに関わらず、俺は魔法をほぼ使うことができない。
──うん、何にも使えないというわけではないんだよ。
「では、開幕初撃──“極小火”!」
「っ……」
俺は魔法が使えない、そう知っているからこそ驚く【暗殺王】。
だが発動したことに驚いているだけで、反射的に弾かれた魔法はすぐに消える。
飛んでいったそれは、小さな種火。
生活魔法と呼ばれる汎用の魔法、それよりほんの少しだけ力のある魔法だった。
それは【見習い魔法士】が得られる、職業能力に組み込まれた魔法。
魔力消費が1で、失敗してもいい仕様にしているからか低威力。
だからこそ、俺はそれを使う。
当てる相手は【暗殺王】……ではなく、俺自身にだが。
「獲得、そして使用──『焦熱の死焔』」
「くっ……」
「切り札ですが、ここで敗北しては意味もありませんので。ええ、暗器での攻撃はどうぞご自由に。一段階、ギアを上げますので」
ありとあらゆるモノを燃やせる炎。
いかに【暗殺王】とて、それは避けなければならないが……回避中でも、ちゃっかり攻撃をしてきた。
認識さえしていれば、膨大な量の戦闘データで的確に対処する『バトルラーニング』。
それを生かすため、『生者』が内包する生と死の[称号]が感知能力を高めている。
自分を殺し得る攻撃に限り、死の警鐘が鳴り響く。
俺の場合はその範囲が広いため、あらゆる攻撃を認識できるようになるのだ。
その結果、飛んでくる暗器すべてを識別して捌くことができている。
このままいけば勝てるが……うん、まだ絶対何かあるぞ。
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