虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その12



 ガキウをリタイアさせ、無事に二回戦への進出を果たした俺。
 舞台から出て、控室として用意された一室でまったりと休憩中。

《お見事です、旦那様》

「俺自身は何もしていないけどな……しかしまあ、上手くやれたものだ」 

 俺が見せ札として開示しているのは、器用に戦う『バトルラーニング』だけ。
 調べたとしても、まだ職業や称号といった情報は知られていない。

 ほとんどの者は、そうして段階的に自分の力を発揮していくだろう。
 知られればそれだけで、不利になる……逆に知られなければ有利に戦えるのだから。 

「考察スレでどういう意見が挙がってる? ああ、必要な情報だけ抽出してくれ」

《畏まりました──検索完了。どうやら道士系のスタイルだと予測されているようです。短剣を使っていたので、盗賊系の可能性もあるとのこと》

「うんうん、意図してはいなかったけど、上手く誤魔化せたみたいだな。次はそれをなぞるのか……それともまったく異なるスタイルで戦うのか。いずれにせよ、あともう少しは待たないとな」

 予選での不死身っぷりは、一度切りの攻撃無効化という認識だったし、まだまだやれることは多い。

 数十分も経てば、再び抽選を行った後に対戦相手が決まるはず。
 なお、ショウやマイ、ルリは参加していないので、必敗はないだろう。

 ……だからこそ、父として夫として、負けるわけにはいかないのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪赤コーナー、冒険世界より参戦。何をするのかまさに未知、今度はいったいどんな戦いで私たちを楽しませてくれるのか──アンノウン!≫

 前回同様、律義に入場門から舞台まで徒歩での移動をする俺。
 楽しませるとか言っているが、さすがにあの勝ち方は問題だったようで……。

「酷いブーイングですね」

《そこまでして勝ちたいのか、といった意見が多々ございましたね》

「まあ、今回どう勝つかはノリで決めるさ。彼らの望む通り、正攻法でもいいし邪道でやるのも気分次第ってことで」

 なんて会話をしている内に、今回の対戦相手の情報が開示される。

≪青コーナー、冒険世界より参戦。その剣は今度こそ、アンノウンを切り裂くことができるのか──ソイド!≫

 現れたのは、共に予選を突破した少年。
 どういう確率を経たら、彼と再会することになるのやら。

「全力で行くから」

「ええ、ええ。どうぞご自由に。ならばこちらも、楽しませていただけそうですので」

 全力で行くとは答えられない。
 俺の持つ全力は決勝戦まで温存し……そのまま使わないぐらいがちょうどいいから。

 少年は剣を引き抜き、構える。
 俺も『バトルラーニング』を発動し、脱力した状態で立った。

≪二回戦──開始!≫

 アナウンスと共に、バトルが始まる。
 少年が動き、俺の体も応じるように動き出した……どうやって勝とうか。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品