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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その10



 お昼を挟み、一対一で行われるトーナメント形式。
 予選を突破できたのは三十二名、要するに五人に勝てば優勝だ。

≪赤コーナー、武闘世界より参戦。その拳にあらゆる障害は打ち砕かれてきた。今回は、いったいどんな物を砕くのか──ガキウ!≫

 名前を呼ばれ、舞台の上に転移されるのは武器を持たない無手の武人。
 最低限、急所を防ぐプロテクターを嵌めただけなのは、スピードタイプだからか。

 彼こそが、対戦相手と共に基礎縛り部門の本選を一番目に戦う男。
 そして、その対戦者に関する情報を、司会進行がアナウンスする。

≪青コーナー、冒険世界より参戦。あらゆる攻撃を受け流し、包み込む爆炎すらも跳ね除けた。正体は私たちも知りません──アンノウン!≫

 そう呼ばれた参加者は、転移ではなく己の足で舞台へ登る。
 なぜなのだという声が辺りから漏れる中、舞台の上でも似た会話が行われていた。

「……おい、なんだよその偽名。しかもその入場の仕方、そこまでして目立ちたいのか」

「…………」

「ちゃんと聞いてんのか? なあ、何とか言えよ、おい!」

「…………なんとか」

 ブチっと何かが切れる音がする。
 ガキウと呼ばれた男は真っ赤なオーラを背後から漂わせ、怒りに満ちたその顔でアンノウンを睨む。

「忠告だ、一撃でお前は負ける。言い訳でも考えておくんだな」

「……はぁ」

「溜め息を吐くんじゃねぇ!」

「…………短い間ですが、よろしくお願いしますね」

 アンノウン──つまり俺なんだが、ペコリとお辞儀をガキウにする。
 オーラって、基礎に含まれるんだなぁと考えていれば、試合を始める合図が鳴った。

「調子に乗りやがって。いいか、本気を出せばテメェなんか一撃なんだぞ?」

「ならばすぐに始めればいいでしょうに。わざわざこんな無駄な時間まで作って、これが脳筋という奴ですか」

「ッ──“オーガノイド”!」

 挑発だと思われたのか、ガキウは力強く叫び何らかの能力を発動する。
 背後のオーラが彼を包み込むと、その姿を変化させた。

 それはまさに赤鬼。
 種族は普人ぽかったので、『プログレス』の能力で間違いないだろう。

「これで終わりだ──“握殴パンチ
!」

 拳撃としては初歩中の初歩な武技だが、そういう縛りだから仕方がない。
 しかし、その拳には赤いオーラが宿り爆発的な威力で俺を襲う。

「一発で死ねぇえええ!」

「……嫌ですよ──回避」

 武技に存在する“回避”を使ったと思わせるブラフで、あえて言葉にして誤魔化す。
 攻撃自体は『バトルラーニング』が体を動かして、いかにもな形でスキルを再現する。

「チッ、これぐらいはできるか」

「いきなりこれを使わせますか。なら、こちらも少しは張り切るとしましょうか」

 これまたいかにもな台詞セリフを言った後、用意した武器を取りだす。
 現れたのは小さな短剣、それを手元で弄んでから構える。

「ええ、これで充分です」

「……舐めてんのか?」

「ペロリ……見ての通りですが?」

 悪党がやってそうなアレをやると、完全にブチ切れるガキウ。
 さて、ここからどうやって戦おうか……正直ノープランである。


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