虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その09
延々と歩いていれば、さすがに俺の戦法も気づかれる。
距離を詰めれば距離を取られ、追いかけてもその差は縮まらない。
俺の致命的な弱点、それは圧倒的に他と比べて速度が劣ること。
結界に乗って加速という手段は、アイテムの持ち込みが限定されている今はできない。
今は『プログレス』の上書きも不可能なので、さらに方法は限られている。
なので俺から何かしようとは思わない、ただきた攻撃を捌くだけに徹していた。
「おや、もう来ませんか……残念ですね。しかし、次の舞台へ上れるのは二人。このままでは、終わりませんね」
残された参加者は四人。
純粋な剣士、魔法使い、暗殺者、生産士。
一人だけ物凄い違和感がありそうだが、ともあれ彼らの中から予選突破者が出る。
しばらくして、覚悟を決めたように攻撃を再開する参加者たち。
派手な攻撃は相応の火力を秘めるが、あまりタネを見せたくはなかったのだろう。
しかし俺がすべての攻撃を捌き、残ることが有力視されている現状。
確実に生き残るのであれば、俺も巻き込む広範囲・高火力の技を出すしかない。
「飛ぶ斬撃、範囲爆発……どうぞお好きに。その程度で私は──えっ?」
煽っている途中で、それは起きた。
軽い衝撃に押され、顔を下に向ければ──小さな短剣が体を刺し貫いている。
気配を殺し、俺をも殺したのだろう。
心なしか、後ろでもやってやったという充実感が醸し出されているような……まあ、よくやったんじゃないか?
「お見事です。よくぞ、私を殺しました」
「────!」
「おや、なぜ退場しないと? 知っていますでしょうか、殺られたら殺り返す……倍返しと言う言葉を」
すぐに短剣を引き抜こうとする……が、それは愚策。
諦めて手放していれば、良かったかもしれないのに。
俺は何もしていない、しかしその参加者は突如として灼熱の業火に殺られて消える。
先ほど語った通り発動したのだ、逃げられないほどに広範囲・高火力の一撃が。
「────」
「これでも死なないのか、ですか。ええ、残念ですが。しかし、隙を見せてしまいましたようで……お悔やみ申し上げます」
「──!?」
「言ったでしょう? 飛ぶ斬撃、と。標的が変わったようで、協力をする必要は無いということですね」
俺と暗殺者を殺すことで、次へ駒を進めようとしたのだろうが……俺は生き残った。
その進み出た勇気の対価は、共に進もうとした剣士からの一撃。
溜めが必要だったようだが、対象を変更できる武技だった飛ぶ斬撃。
それを油断していた魔法使いに放ち、彼は次へ進む資格を得た。
「……生存特化型か?」
「いえいえ、生産特化型ですよ。後ほど宣伝いたしますので、御用がありましたらぜひともご連絡ください」
剣士の少年と会話をしてから、舞台を降りて元の場所へ戻る。
同時にいくつかの会場でやっているが、それでも複数回やらないと予選が終わらない。
一時間程度では終わらない、何より予選突破者には次にやることがある。
俺もまた、参加者としてそれらを済ませておかないとならない。
「さて、使える武器の種類が増えた。魔技も使う系統を増やせるみたいだな……俺の恩恵はあんまり無いけど」
先ほどは使える武器は一種類で、魔技も一属性だけだった。
だが予選以降はそれらも解放され、長期に渡る戦闘を考慮されている。
「まあ、魔術の方も使えないから俺って何もできないんだけど」
──さて、どの武器を入れようか?
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