虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル前篇 その05
悩みに悩んで迎えた翌日。
俺の姿は舞台……にはなく、観覧席……にも無かった。
なぜなら、行われるのは初心者部門。
絶対に家族が参加することは無いので、気にしなくとも良いのだ。
──代わりにやらなければならないことがあるからな。
「参加されるのですか?」
「いいや、あくまでも観覧だけだ。その代わり、【勇者】は参加するそうだ」
「……その部門には参加しないので」
原人も参加するイベントなので、彼らもまたこちらの世界に来ている。
旧来のゲームのように都合よくバトル時のみではなく、事前に訪れているのだ。
まあ要するに、観覧しに来た『騎士王』に絡まれている。
この後の予定は話したはずなのだが……むしろ好都合なんだとか。
「本当に、よろしいのですか?」
「ふっ、一度話をしてみたかったからな。どれほどの存在であれば、『生者』を手なずけることができるのかと……興味深い」
「…………向こうの許可も出ましたので、私からは何も言いませんけども。くれぐれも、くれぐれも! 余計なことは言わないでくださいよ」
「心得ているとも──『生者』の奥方、とても見物だろう!」
そう、俺はこの後ルリと会う予定だった。
◆ □ ◆ □ ◆
緊張が張り詰めている。
「──ふふふっ、ツクルさんったらそんなことまでしていたの?」
「ああ。まさか、そこまでするとは思ってもいなかったよ。周りも驚きさ、誰も予想していない結果だったからな」
「…………」
『…………』
俺も、ルリを守護する親衛隊もまた誰も挙動を起こさないよう気を引き締めていた。
片や新興宗教における現人神、片や星から認められた最強の王。
彼女たちの会話が、星の命運を左右しかねないのだ……そうならざるを得ない。
俺だけはまったく別の理由でそうなっているのだが、誰も気にしていなかった。
「あら、もうこんな時間なの?」
「仕方がない。アズルの旦那様は、それほどまでに私たちにとって刺激的なことをしてきたということだからな」
「そうですね。自慢の旦那様です」
「…………」
こういうとき、俺はどういった反応をすればいいのだろうか。
居心地が悪い、いっそのこと発狂して逃げ出したい気分だ。
というか、ルリもいつの間にか物凄い勢いで『騎士王』と仲良くなっていた。
彼女自身が『騎士王』と仲良くなりたい、そう思ったからかもしれないな。
などと考えている場合じゃなかった。
本来ならどうしてこうなったか、回想が入るところだろうが……ルリなので、こうなることも最初から予想できたことだ。
ルリもルリで、俺が『騎士王』を連れてきても悪感情は抱いていない。
……本当、俺みたいな凡人には勿体ないほどいい奥さんだよな。
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