虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その01



 イベント世界 闘技場(大陸)

 今さらだが思う。
 この世界の権限の一部を、運営……あるいは運営に関わる者が有しているのではと。

 都合のいいイベントに関するルールの構築とは、まさに上位権限のような振る舞いではないかと……確認してみると、そう推察していたとの言も『SEBAS』から貰った。

 いずれにせよ、運営が決めたからといってその通りにできるはずがないのだ。
 ……いずれ接触する機会があるかどうか、探るだけ探っておこう。

「そんな理不尽な上位権限のせいか、こんなおかしな場所が存在するんだよな」

《旦那様は参加していなかったため、訪れることがありませんでしたね。こちらは大陸のリソースを、結界の構築に費やすことで理に合わせた会場となります》

「……少し俺の頭には難しかったなー。えっとつまり、ここって空いていた土地に闘技場ができたんじゃなくて、闘技場のために大陸が用意されたってことか?」

《おそらくは》

 うん、上位者ってのは考えが分からん。
 俺もある意味その一人なんだが、人を楽しませるためにはここまでしなければいけないのだろうか……。

 運営が決めた通りに何かを成すため、裏ではこんな努力があるわけだ。
 しかし、考えてみれば当然と言うの納得も行くわけだが。

「休人全員を収納して、楽しませるには広い場所が必要で。そんな場所で非殺傷結界みたいに燃費の悪い物を使うなら、相応の星脈との接続が必要だ……それを誤魔化すために、大陸ここが用意された?」

《御明察でございます》

「あー、うん。なんて言っていったらいいかよく分からない。けどまあ、どこかの王妃みたいなやり口な気がする」

 パンが無いからお菓子を……とか言っていたらしい感じが、なんとも上位者らしさを醸し出しているだろう。

 まあ、実際には言ってなかったという説もあるのだが、世の中の幻想においてはそういうことになっている──ある意味、この大陸では通用する理屈だ。

「ふぅ……まあ、きっと頑張ったんだろう。特にこの星、よくぞやり遂げました」

《十全にリソースの供給を受けていたとは思われますが、それでもこれだけの広さです。大量発生イベントで用いられた簡易版より、膨大な消費が起きたでしょう》

 そういえば、前回のイベントでも闘技場のようなステージが用意されていた。
 わざわざここがあるのに、それを使わないのは理由があってのことだったのか?

「うーん、これも考えたって答えが出てこない問いな気がする。まっ、燃費的な問題なのかもしれないな」

 大陸一つ分を闘技場に費やしてもなお、一定期間のチャージが必要……とかそういうことかもしれない。

 だってデカすぎるんだもん……傍から見ただけでも、街そのものって言ってもいいぐらいの大きさに見えるしな。


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