虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
上位権限 前篇
《──と、このようになっております》
「なんだか複雑な状況だな……というか、こういうのって終盤になるまで分からないのがテンプレじゃないか?」
先日、星同士で行われた交信の一部を、なぜか『SEBAS』が入手していた。
曰く、アイスプルの全権限を保持しているので、いつでもできるんだそうで。
《アイスプルは一度死に、旦那様によって再構築されました。そもそも、裏切る可能性などございません》
「……まあ、理屈はそうなるのかな。ともあれ、最小の方の説明で言っていた依頼ってのはどういうものか教えてくれるか?」
《畏まりました──端的に申してしまえば、世界における上位権限の付与を求めました》
「上位権限? と言うと……アレか、移動制限が無くなるとか、戦闘を回避できるとか」
アイスプルにおいて、俺は最上位権限……的なものを持っているらしい。
あくまでそう教わっているだけで、特に実感をしたことはないけど。
その権限によって、予め星の方で設定したメリットの恩恵にあやかれる。
進入禁止にしてある領域に入れたり、守護者と戦わずに済んだり……いろいろだ。
話によれば、受諾してくれたのはレムリアだけ……あそこはいろいろやったしな。
保留にしてくれた冒険世界も、つい先日いろいろとやらかしたばかりだからだろう。
「それは諦めて、次は中継依頼をしたと……その件はどうなったんだ?」
《はい。情報が送信され、いくつかの世界への渡航が可能となりました。ただし、すべて初期地点からのスタートとなります》
「……それは全然構わないんだが、なんというか今さらだな。うん、凄く嬉しいけど、どうしても行きたいわけじゃないし」
ショウは時折、武闘世界へ行くことがあるらしいし、マイは育命世界という従魔にできる存在がたくさん居る世界に行くことがあるそうだ。
ルリに至っては、神天世界という全神話を基にした超常的な世界に行けるらしい。
俺も北欧神話の世界経由で、いずれは行けるかもしれないが……難しいだろうな。
「まあ、それは必要に応じて……それぞれの世界で、いろんな恩恵を受けられるらしいけど。やっぱり俺は、冒険世界でほどほどの冒険が出来れば充分だしな」
何より、冒険世界の方が広いらしいし。
武闘世界や育命世界は、直接行った二人によると一定の技量を証明できないと向かえない場所があるそうだ。
……物理的に狭いわけじゃない。
ただ、俺の場合は結局移動に制限が入るので、無理になってしまうのだ。
「あっ、それで上位権限なのか」
《はい。旦那様に上位権限があれば、旦那様自身の資格とは別に移動が可能となります。今回は拒否されましたが、段階を踏めば不可能ではないでしょう》
さすがは『SEBAS』……そういうときのための布石を、事前にやっていたわけだ。
しかし、ここまでやってもらうと、さすがに興味が湧いてくる……いずれだけども。
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