虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

強者の宴 その17

連続更新です(05/08)
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 世界が生みだした理不尽の権化──星剣。
 担い手である【勇者】もまた、【魔王】に対する理不尽を宿した存在。

「真なる【勇者】は【魔王】による致死攻撃の完全無効化が可能となる。果たして、どのようにして打ち勝つのか」

「……そんな力があるのですか?」

「【勇者】は【勇者】でも、生産に傾倒しているのであれば目覚めることのない力だ。あくまでも、【魔王】を数度屠ることでしか得られない力だからな」

「なるほど。ですが、【魔王】にも対抗する術はございますよ」

 そうこう言っている間に、戦況が動く。
 剣を弾き飛ばした【勇者】が、そのまま斬撃を放つ……その瞬間、【魔王】が自身の右腕を引き千切り投擲、防御をさせて後退。

 すぐに追いかけようとする【勇者】だが、その腕が小さな竜になって黒い息吹を吐く。
 仕方なしとそれを処理するのだが……その間に【魔王】の全身が蠢く。

「【魔王】は過去の継承者たちの記録を保持しています。それが【魔王】に与えられた特権ですので。そして、今代の【魔王】はそれらの記憶だけでなく、相対した過去の英傑たちの情報をも有しています」

 まず、残された左腕が変化する。
 ほっそりとした白い腕、男の見た目をしていた【魔王】とは違い女性のものだ。

 その腕を自分の胸に当てて、何かをボソッと呟くと──辺りが白光に包まれる。
 それは魔に頂点たる【魔王】をも慈悲深く対象とし──失われた右腕をもたらした。

「【聖女】の固有魔法“聖光周癒”というのでしたっけ? 純粋な模倣以上に、再現が得意な方なのですよ」

「それで収めて良いのだろうか?」

「本人曰く、『真似ることしかできないのならば、それを極限まで高めればいい」とのことです。その結果、条件を満たせば相手の持つ能力も再現できるようになったようです」

 一番簡単なのは、俺もやっている細胞の採取……これはドッペルゲンガーの種族性質に基づいてのもの。

 低レベルな個体では姿しか真似られないものを、高レベルかつ【魔王】ブーストの恩恵で強化された再現は、部分的な再現でその力すべてを引き出すまでに至った。

 そして、異なる再現の方法。
 それは【魔王】の権能である『簒奪』が蒐集した存在そのものの読み取り。

 対象が宿していた特殊な力を奪い取り、我が物のする【魔王】の力。
 それはつまり、結びついていたものを引き剥がして取り込むということ。

 それを【魔王】は読み取り、自分の体で再現することで使い手と同じことをしている。
 要するに、権能持ちや最上位職業の就職者に限り、再現を行うことができるのだ。


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