虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
強者の宴 その10
結局、『一撃』を以ってしても俺の肉体が完全に消失することは無かった。
エクリの姿は俺を模しているし、真の意味でその仕掛けに気づかれはしないだろう。
「……本当に、こんなことでいいのか?」
「こちらこそ、厚かましくも『一撃』さんに甘えてしまいまして」
「構わない。こちらも無理な願いを通したのだ、相応の礼で報いるべきだろう」
ルールを課した以外にも、勝負を受ける際に条件を提示していた。
勝敗に応じて、いくつかの情報を開示してほしいというもの。
それは、『一撃』の力に関する情報。
そこには権能の詳細だけではなく、知り得る限りの──習得条件・類似能力など──情報も聞いていた。
「とはいえ、私が話せることはあまり多くは無いだろう。代わりに、こちらから提示したい情報があるのだが」
「はて、それはいったい……?」
「貴方は【千手観音】の名を知っていただろう? ならば、私があのときに知り得た情報も有意義に活用できるはずだ」
どうやら倭島で就くことができるらしいのだが、その就職条件が難しかったとのこと。
島の様々な場所を巡り、仏閣を参拝……そうして【千手観音】に就いたそうだ。
しかし、就くことができたのはあくまでも偶然だったらしい。
職業に就くには、対応する仏像との勝負が必要なのだが……見分けがつかなかったと。
なので一番腕の多い仏像と戦い、得たのが【千手観音】……たまたまらしい。
まあつまり、仏像に関する教養が必要になるんだとか。
「ありがとうございます。おそらく、私自身が就くことはできないでしょうが……それでも、それを必要とする者たちにヒントを与えることはできるでしょう」
「そう言ってもらえると、こちらも助かる。また次があれば、戦おう」
「あっははは……それは少々、避けたいところですね」
「私の『一撃』を以ってもなお、こうして会話ができる者はそう多くは無い。貴方は紛れもなく強者だ、胸を張ると良い」
そう言い、俺の肩をポンと叩いて『一撃』は俺の下を離れていった。
その一撃ですら、俺を殺しているというのに……どこが強者なんだろうか。
「とはいえ、貴重な最上級の『死天』アイテムに加えて、最上位職の情報まで貰っている身だしな。可能な限り、今度からお礼はしていこうか」
だいぶ前から、温めていた物がある。
原人の中でも、『超越者』にのみ使わせたいと思っていた代物だ。
拒否される可能性は高いが、それはそれで別にいい……後で主催者側に、その打診でもしておくとしますか。
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